収益物件を資産管理法人で持っている場合、オーナーが亡くなったときに相続されるのは不動産そのものではなく、その法人の株式です。株式には市場価格がないため、財産評価基本通達の「取引相場のない株式」の定めに沿って評価します。この記事では、資産管理法人の株式の評価で押さえておきたい純資産価額方式の計算、取得から3年以内の不動産の扱い、土地保有特定会社の判定を、国税庁の通達とタックスアンサーに沿って整理します。個別の評価額の計算や対策は、税理士に相談してください。
取引相場のない株式の評価方式の全体像
取引相場のない株式は、同族株主などが取得した場合の「原則的評価方式」と、それ以外の株主が取得した場合の「配当還元方式」に分かれます(国税庁 No.4638 取引相場のない株式の評価)。家族で株式を持つ資産管理法人を相続人が引き継ぐ場合は、原則的評価方式で評価するのが一般的です。
原則的評価方式では、会社の規模によって評価方法が変わります(財産評価基本通達 178・179)。
- 大会社: 類似業種比準価額(純資産価額を選ぶこともできます)
- 中会社: 類似業種比準価額と純資産価額を、規模に応じた割合Lで組み合わせた金額
- 小会社: 純資産価額(納税義務者の選択で、Lを0.50とした組み合わせの金額も選べます)
規模は、従業員数・直前期末の総資産価額(帳簿価額)・直前期末以前1年間の取引金額で区分します。通達の表では、従業員数が5人以下の会社は総資産価額の基準で中会社以上に当たらないとされているため、従業員の少ない資産管理法人では、家賃収入などの取引金額が区分を左右することになります。
純資産価額方式の計算と法人税額等相当額
純資産価額は、課税時期の各資産を通達に沿って評価した合計額から、負債の合計額と「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」を差し引き、課税時期の発行済株式数で割って求めます(財産評価基本通達 185・186・186-2)。
- 土地や建物は、帳簿価額ではなく通達の定めによる評価額(相続税評価額)で計上します
- 貸倒引当金や退職給与引当金などの引当金・準備金は負債に含めません。一方、課税時期までに対応する未払いの法人税等や、未払いの固定資産税、被相続人の死亡で支給が確定した退職手当金などは負債に含めます
- 相続税評価額による純資産価額が帳簿価額による純資産価額を上回るときは、その差額(評価差額)に一定割合を掛けた額を控除します
この割合は、防衛特別法人税の創設に伴って37%から38%に改正され、令和8年4月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した株式の評価に適用されます(国税庁 取引相場のない株式等の評価(純資産価額方式における法人税額等相当額))。課税時期がそれより前なら改正前の割合を使うため、相続の日付で確かめる必要があります。
取得から3年以内の土地・建物は「通常の取引価額」で評価
資産管理法人の評価で見落としやすいのが、通達185のかっこ書きです。評価会社が課税時期前3年以内に取得または新築した土地等と家屋等は、相続税評価額ではなく、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価します(財産評価基本通達 185)。帳簿価額が通常の取引価額に相当すると認められる場合は、帳簿価額で評価できるとされています。
法人が物件を買った直後に相続が起きると、その物件は購入価格に近い金額で純資産に入ることになり、路線価や固定資産税評価額との差による評価の引き下げは働きません。法人で物件を買い増す時期と、オーナーの年齢や承継の計画は、あわせて考えておく必要があります。
土地保有特定会社に当たると純資産価額方式で評価
総資産に占める土地等の割合が高い会社は「土地保有特定会社」に当たり、会社の規模にかかわらず純資産価額方式で評価します(財産評価基本通達 189・189-4)。判定の基準は次のとおりで、土地保有割合は各資産を通達に沿って評価した価額の合計額に占める土地等の価額の割合です。
- 大会社、および総資産価額(帳簿価額)が卸売業20億円以上・それ以外15億円以上の小会社は、土地保有割合70%以上
- 中会社、および総資産価額(帳簿価額)が卸売業7,000万円以上・小売・サービス業4,000万円以上・それ以外5,000万円以上の小会社(1に当たるものを除く)は、土地保有割合90%以上
総資産価額がこれらの金額に満たない小会社は、土地保有特定会社の判定の対象になりません。また通達189は、課税時期前に合理的な理由なく資産構成を変え、その変動が判定を免れるためのものと認められるときは、変動がなかったものとして判定すると定めています。開業後3年未満の会社なども、同じく純資産価額方式で評価します。
評価の前に確認しておきたいこと
株式の評価額は、直前期末の決算内容と課税時期の資産で決まります。次の資料を手元で整理しておくと、税理士との相談が進めやすくなります。
- 直前期末の決算書(帳簿価額の総資産、取引金額、従業員数)
- 課税時期前3年以内に取得・新築した土地や建物の一覧と取得価額
- 保有物件ごとの土地・建物の相続税評価額の見込みと、土地保有割合
- 株主名簿と、各株主の議決権の割合
また、通達には「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」という定めもあります(財産評価基本通達 6)。法人で持つか個人で持つかの判断材料は個人と法人どちらで買うべきかで、法人保有の税務の全体像は法人で不動産を保有する節税メリットで解説しています。承継の時期が見えてきたら、評価の試算を税理士に依頼してください。
