給与と家賃収入は合算課税される
会社員が不動産投資をして家賃収入を得た場合、この収入は「不動産所得」として給与所得と合算され、確定申告が必要になります。重要なのは「合算することで適用税率が上がる可能性がある」という点です。
合算課税の仕組みを理解していないと、「家賃収入が増えた割に手取りが想定より少ない」「節税のつもりが税務上問題になった」といったギャップが生じます。不動産投資の収益計画は、税引き後の実手取りで評価することが不可欠です。
所得税の累進課税の仕組み
日本の所得税は累進課税制度を採用しており、課税所得が多いほど高い税率が適用されます。
税率早見表(2026年版):
| 課税所得 | 所得税率 | 住民税 | 実効税率 |
|---|---|---|---|
| 〜195万円 | 5% | 10% | 15% |
| 195〜330万円 | 10% | 10% | 20% |
| 330〜695万円 | 20% | 10% | 30% |
| 695〜900万円 | 23% | 10% | 33% |
| 900〜1,800万円 | 33% | 10% | 43% |
| 1,800〜4,000万円 | 40% | 10% | 50% |
| 4,000万円超 | 45% | 10% | 55% |
(所得税は各段階での超過累進課税。復興特別所得税2.1%は省略)
重要なのは「追加所得の税率」です。給与収入によって課税所得がすでに高い水準にある場合、家賃収入の追加分はそのブラケット以上の税率が適用されます。
不動産所得の計算方法
不動産所得は「収入金額 − 必要経費」で算出します。必要経費として認められる主な項目は以下のとおりです。
- 減価償却費:建物の取得費を法定耐用年数(RC造47年・木造22年など)で分割して計上
- 借入金利息:ローンの利息部分(元本返済は経費不可)
- 管理委託費:管理会社への委託料(通常賃料の5〜10%)
- 修繕費:原状回復・維持管理に要した費用(資本的支出と修繕費の区別に注意)
- 固定資産税・都市計画税:年間の税額全額
- 損害保険料:火災保険・地震保険の保険料
- 広告宣伝費:入居募集に要した費用
- 交通費・通信費:物件管理に関連する実費
これらを合計した経費が家賃収入を上回る場合、不動産所得は「赤字」となります。
具体的な税額シミュレーション
給与収入に家賃収入が加わった場合の税率変化を試算します。
ケース1:給与収入600万円のサラリーマン
- 給与所得:600万円 → 給与所得控除後の給与所得:約436万円
- 基礎控除48万円等を差し引いた課税所得:約360万円
- この場合の実効税率:主に20〜23%ゾーン
家賃収入が年100万円(不動産所得)増えた場合:
- 課税所得が360万円 → 460万円に増加
- 追加の100万円には実効税率30〜33%が適用
- 手取り増加額:100万円 × (1-0.30) ≒ 70万円程度(社会保険料等除く概算)
ケース2:給与収入1,000万円の高収入者
- 課税所得が既に高い水準にある(900万円以上ゾーン)
- 家賃収入が加わると追加分に43%以上の税率が適用
- 手取り増加額:家賃収入100万円に対して約57万円程度
このように高収入者は、家賃収入に適用される税率が高くなるため、名目上の家賃収入より手取りは大幅に少なくなります。高収入者が不動産投資する場合は、税引き後利回りを中心に収益性を評価する必要があります。
不動産所得の赤字を使った節税
不動産所得が赤字(費用が家賃収入を上回る)の場合は、給与所得と損益通算して税額を下げる節税効果があります。
損益通算の例:
- 給与所得:700万円
- 不動産所得:△200万円(赤字)
- 合算後課税所得:500万円 → 節税額:200万円×23%(実効)=46万円程度
赤字になる主な要因:
減価償却を活用した節税の考え方: 減価償却費は「現金支出を伴わない経費」です。取得当初は減価償却費が多く計上されるため、不動産所得が赤字になりやすく、給与所得との損益通算が大きくなります。しかし耐用年数が過ぎると減価償却費がゼロになり、収支が黒字に転換するため、税負担が増えるタイミングに注意が必要です。
ただし、「わざと赤字にして節税」という目的の不動産投資は長期的な経営視点から外れるリスクがあります。節税効果が消えた後の収支が成立しているかを購入前に試算することが重要です。
土地にかかる借入利息は損益通算不可: 不動産所得が赤字の場合でも、土地取得に要した借入金の利息相当額は損益通算から除外されます。建物分の利息のみが通算できる点に注意が必要です(土地利息の負担計算は税理士に確認を)。
法人化による税率最適化
個人の高い所得税率(最大55%)に対して、法人税率は実効税率30〜35%程度(中小企業)です。家賃収入規模が大きくなるにつれて、法人化による税率差のメリットが出てきます。
法人化を検討すべき目安:
- 不動産所得が年800万円以上
- 個人の給与所得と合算すると税率43%以上になる場合
- 役員報酬として家族への所得分散を活用したい場合
法人化の主なメリット:
- 法人税率(中小企業は実効30〜35%程度)への切り替えで税率が下がる
- 役員報酬として家族に給与を支払い、所得分散できる
- 物件を法人名義で購入すると相続税対策にもなる
- 退職金制度(小規模企業共済等)の活用
法人化のデメリット・コスト:
- 法人設立コスト(株式会社で約20〜25万円、合同会社で約10〜12万円)
- 毎年の法人住民税均等割(赤字でも約7万円以上)
- 社会保険料の負担増(役員報酬に対して)
- 税務申告が複雑になり税理士費用が増加
法人化のメリット・デメリット・タイミングは税理士と詳細に相談することが必要です。
確定申告の実務ポイント
青色申告の活用:不動産所得がある場合は青色申告を選択することで、最大65万円の控除(青色申告特別控除)が受けられます。事業的規模(5棟以上または10室以上)の場合は特に有利です。青色申告には事前に税務署への届出が必要なため、取得前年度中に届出を完了させておきます。
事業的規模の確認:5棟10室基準を満たす場合は「事業的規模」として、①青色申告特別控除65万円の適用、②専従者給与の計上、③貸倒損失の必要経費計上などの特典が受けられます。基準を満たさない小規模保有の場合は10万円控除にとどまります。
収支計算の記録:家賃収入・修繕費・管理費・固定資産税・借入金利息などを月次で記録し、確定申告時にスムーズに申告できる体制を整えます。クラウド会計ソフト(freee・マネーフォワード等)との連携が有効です。
申告期限と納付:確定申告の期限は毎年3月15日(所得税)。予定納税制度があるため、前年の税額が大きい場合は7月・11月に前払いが求められます。
税理士への依頼:複数の物件を保有する場合や、損益通算・法人化を検討する場合は、不動産に詳しい税理士への依頼が確実です。
まとめ
給与と家賃収入の合算課税を正確に理解することで、不動産投資の実際の手取りを正確に把握できます。高収入者ほど追加所得に対する税率が高くなるため、「家賃収入=手取り」という誤解は禁物です。不動産所得の経費計上(減価償却・利息・修繕費等)を正確に把握し、損益通算・法人化・青色申告の活用を組み合わせて、税負担を最適化した不動産経営を目指しましょう。(本記事は2026年の一般的な税制に基づく解説です。個別の税務判断は必ず税理士等の専門家にご相談ください。)
