アパート建設で相続税が「なぜ」減るのか
「土地にアパートを建てると相続税が節税できる」という話は不動産業者からよく聞かれます。確かに税法上の仕組みは存在しますが、その効果を過大評価すると大きなリスクを抱えることになります。
評価額圧縮の仕組み
アパートを建てることで相続税の計算上、主に以下の評価減が適用されます。
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貸家建付地評価減:更地に比べ、アパートが建っている土地(貸家建付地)は評価額が下がります。計算式は「自用地評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)」です。一般的に自用地評価の20〜30%程度の圧縮効果があります。
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建物の固定資産税評価額での評価:建物は建設費の5〜7割程度となる固定資産税評価額で相続税が計算されます。1億円で建てた建物も相続税評価は5,000〜7,000万円程度になります。
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借入金による財産の圧縮:アパート建設で1億円を借りれば、プラスの財産(建物・土地)が増える一方、マイナスの財産(借入金)も1億円増えます。差し引きでの課税財産は増えません(むしろ評価圧縮分だけ減少します)。
この仕組みを活用すれば、確かに相続税は軽減されます。しかし「節税できる」という事実の裏にある複数の落とし穴を理解しておく必要があります。

落とし穴1:過剰供給エリアでの空室リスク
相続税対策のアパート建設は2010年代後半に急増し、地方都市を中心に供給過剰が深刻化しました。最近は金利上昇の影響で新規建設ペースが落ち着いてきたものの、すでに過剰供給となったエリアでは入居者獲得の競争が続いています。家族の土地に節税目的でアパートを建てた結果、周辺の競合アパートが増えて入居者が集まらず、家賃収入より返済額の方が大きくなるケースが実際に起きています。
節税対策として建設を検討する前に、必ず以下を確認してください。
落とし穴2:節税効果より返済負担が重くなる
銀行からの借入でアパートを建設する場合、毎月の返済義務が生じます。家賃収入が安定していれば問題ありませんが、空室率が悪化したり家賃を値下げせざるを得ない状況になると、返済が家賃収入を上回る「赤字経営」に陥るリスクがあります。
2024年以降、日銀の金融政策正常化により変動金利が上昇傾向にあります。変動金利でアパートローンを組んでいる場合、返済負担の増加も念頭に置く必要があります。「相続税を減らすために建てたアパートのせいで、相続人が毎月赤字を出し続けている」という事態は珍しくありません。
落とし穴3:相続後の運営負担を相続人が担う
被相続人(親)が元気なうちはアパート経営に携わっていても、相続が発生すれば相続人(子)が引き継ぐことになります。相続人がアパート経営に関心がない場合や、複数の相続人に物件が分割される場合、管理や意思決定が困難になることがあります。
特に、相続人が遠方に住んでいたり、会社員として忙しい場合は「管理委託費用が重く、手元に残る収益が少ない」という問題も起きやすいです。
落とし穴4:「小規模宅地等の特例」との選択適用の複雑さ
相続税の節税には「小規模宅地等の特例」(自宅の敷地の評価額を80%減額できる制度)も重要です。しかし、アパート建設によって更地をアパート用地に転換した場合、この特例の適用対象・面積の上限が変わる可能性があります。
アパート建設の前に、既存の自宅・事業用地に対する小規模宅地等の特例をどう活用するかを税理士と綿密に確認する必要があります。
落とし穴5:建設後すぐに満室でないと節税効果が薄れる
貸家建付地の評価減には「賃貸割合」が掛かります。相続発生時に空室が多いと、賃貸割合が低下し評価減効果が小さくなります。
計算例:
- 借地権割合60%・借家権割合30%として、満室(賃貸割合100%)なら評価減率は18%
- 同条件で空室50%(賃貸割合50%)なら評価減率は9%
節税効果を最大化するためには、相続発生時に高い稼働率を維持し続けることが前提であり、空室リスクは常に存在します。
落とし穴6:「相続税対策」を名目にした過剰な建設プランに注意
ハウスメーカーや不動産会社が提示する「相続税シミュレーション」は、節税効果を強調するために都合の良い前提(満室・現行家賃継続等)で作成されることがあります。
提示されたシミュレーションを無批判に受け入れず、以下の観点で精査することが重要です。
- 空室率10〜20%で計算した場合の収支はどうか
- 金利上昇(変動金利の場合)時の返済額試算はあるか
- 30年後の大規模修繕費はどう見積もられているか
感度分析(センシティビティ分析)を使って複数シナリオで試算する手法については、感度分析を使った不動産投資判断も参照してください。
落とし穴7:出口戦略(物件の売却)が難しい場合がある
節税目的で建設したアパートも、将来売却が必要になる場合があります。しかし、地方エリアの築古アパートは売却先が見つかりにくかったり、残債以下の価格でしか売れないケースもあります。
「節税のために建てたアパートが負の遺産になる」という事態を避けるために、建設前から出口戦略(売却可能性・想定売却価格)を検討することが重要です。
対策:アパート建設を「節税ありき」で決めない
相続税対策としてアパート建設を検討する場合は、以下の手順で慎重に判断してください。
- まず相続税専門の税理士に相続税の試算を依頼し、実際の節税効果を定量的に確認する
- 賃貸需要の調査(エリアの空室率・競合物件・将来の人口動態)を独立した視点で実施する
- ハウスメーカー・不動産会社とは別の専門家(ファイナンシャルプランナー・相続診断士等)のセカンドオピニオンを取る
- 「節税効果がゼロでも収益的に成立するか」という視点で投資判断を行う
アパート建設は確かに相続税の圧縮効果がありますが、それ以上に不動産事業としての収益性と継続可能性が重要です。節税のためだけに不動産事業を始めると、相続した家族が長期間にわたって苦しむリスクがあります。
まとめ
相続税対策のアパート建設は、税法上の仕組みとして確かに効果があります。しかし空室リスク・返済負担・相続後の管理問題・出口戦略など、見逃しやすいリスクが複数存在します。
「節税できる」という話を鵜呑みにせず、不動産事業として収益が成立するかどうかを第一基準に置いた判断が、長期的に見て最も賢明な選択です。
