不動産×生前贈与が有効な理由
相続税対策として生前贈与が注目される背景には、現預金と不動産の評価の差があります。現預金1,000万円は相続税評価でもそのまま1,000万円ですが、収益物件は路線価・固定資産税評価額をベースにした評価となり、時価の60〜80%程度に圧縮されることが多いです。
さらに収益物件を生前に子や孫に贈与することで、賃料収入を受け取る権利も移転します。家族全体での所得分散が実現し、オーナーが一人で賃料収入を受け取り続けるケースより所得税の税率を下げる効果もあります。
生前贈与の主な方式と不動産への適用
暦年課税贈与(基礎控除110万円)
最も基本的な贈与方式です。受贈者1人あたり年間110万円までの贈与は贈与税がかかりません。
不動産贈与との組み合わせ上の注意点:不動産は1件当たりの評価額が大きいため、通常は一括で贈与すると基礎控除をはるかに超えます。持分(共有持分)を少しずつ贈与する「分割贈与」が検討されることもありますが、計画的分割は「連年贈与」と認定されるリスクがあります。
2024年以降の改正点:2024年から暦年贈与の相続前持ち戻し期間が3年から7年に延長されました。相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算されます(4〜7年前分は100万円の控除あり)。このため「直前の駆け込み贈与」の効果が薄れており、長期計画の重要性が増しています。
相続時精算課税(累積2,500万円まで贈与税非課税)
60歳以上の親・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与に適用できる制度です。累積2,500万円まで贈与税がかからず、相続時に相続財産に加算して精算します。
不動産贈与でのポイント:
- 贈与時点の評価額で相続時に精算(値上がりした場合は贈与時の低い評価が有利)
- 2024年以降は年間110万円の基礎控除が相続時精算課税にも新設
- 一度選択すると暦年課税に戻れないため慎重な判断が必要
収益物件を早期に子世代に移転し、将来の賃料収入を子世代が受け取る形にしたい場合に活用されます。
不動産評価の圧縮効果
相続税・贈与税における不動産の評価は、市場価格(時価)ではなく「相続税評価額」を用います。
土地の評価:路線価方式(路線価×面積×各種補正)または倍率方式。都市部では路線価が時価の80%程度を目安に設定されており、さらに各種補正(不整形地・奥行き補正等)で評価が下がります。
建物の評価:固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となります。一般的に建築費の50〜70%程度になることが多いです。
貸家・貸家建付地の評価減:賃貸中の建物(貸家)は固定資産税評価額から借家権割合(30%)を控除できます。貸家建付地(貸家が建つ土地)も自用地評価から借地権割合×借家権割合×賃貸割合分を控除できます。都市部では20〜25%程度の評価減になる計算になります。
小規模宅地等特例との連携
被相続人が貸付事業用に使っていた宅地(貸付事業用宅地等)は、相続後も引き続き貸付事業に使う場合、200㎡まで50%の評価減が適用されます(貸付事業用宅地等の特例)。
ただし、この特例は「相続で取得した土地」に適用されるものです。生前贈与で移転した土地には適用されません。このため、どの資産を生前贈与し、どの資産を相続で渡すかの設計が重要になります。
実務的な判断軸:
- 評価額が大きく含み益もある物件:生前贈与(評価圧縮効果)
- 特例適用が大きく見込める物件:相続(小規模宅地等特例)
不動産管理法人を活用した承継
複数の収益物件を保有する場合、不動産管理会社(法人)を設立し、子世代が法人の株式を保有する形での承継も選択肢です。
メリット:
- 法人株式は毎年の株価評価で贈与・相続が可能(分散しやすい)
- 法人内に収益を留保することで個人の所得税・相続税の圧縮が可能
- 役員報酬として子世代へ合法的に所得移転できる
デメリット:
- 設立・維持コスト(法人税・決算申告費用・社会保険料等)
- 既存物件の法人移転には不動産取得税・登記費用がかかる
- 規模が小さい段階では費用対効果が合わないケースも多い
目安として、年間賃料収入が500万円を超える段階から法人化の検討が実務的とされることが多いです。
家族信託の活用
認知症リスクが高まる親から子へ、不動産の管理権限を信託財産として移転する「家族信託」も注目されています。
特徴:所有権は親が保持したまま、管理・処分権限を子(受託者)に移転。認知症になった後も子が物件管理・売却判断を行えます。
相続税との関係:家族信託は所有権の移転ではないため、贈与税・相続税対策としての直接効果は限定的です。ただし認知症による資産凍結を防ぎ、スムーズな資産承継を実現する観点から、生前贈与戦略の補完ツールとして活用されています。
生前贈与戦略の設計フロー
- 資産棚卸し:保有物件の相続税評価額・時価・含み益・賃貸状況を一覧化
- 相続税の試算:現状での相続税額と各対策後の比較試算
- 贈与方式の選択:暦年 vs 精算課税の有利判定(評価額・年齢・相続までの期間)
- 小規模宅地等特例との整合:贈与する物件と相続させる物件の振り分け
- 法人・信託の要否判断:規模・家族構成・コストを考慮
- 毎年の実行と記録:贈与契約書の作成・金銭授受の記録・登記変更の実施
まとめ:長期視点と専門家連携が不可欠
生前贈与戦略は「相続時の節税」と「賃料収入の分散」を同時に実現できる有効な手法です。ただし2024年の暦年贈与の持ち戻し期間延長など税制は随時変化しており、最新の法改正を踏まえた専門家(税理士・司法書士)との連携が不可欠です。
特に複数物件を保有するオーナーは、早期に全体設計を立て、毎年少しずつ実行する長期アプローチが税負担の圧縮に最も効果的です。
