賃貸不動産の収支計算書とは(結論)
賃貸不動産の収支計算書(収支表)とは、家賃収入から必要経費・ローン返済・税金を差し引き、最終的に手元にいくら残るか(キャッシュフロー)を可視化する表です。ポータルの「表面利回り○%」では分からない「実際の手取り」を把握でき、確定申告・融資審査・売却や追加投資の判断材料になります。
作成で押さえるべき要点は次の3つです。
- 2軸で管理する:税務上の不動産所得(家賃収入−必要経費)と、現金ベースの手取りキャッシュフロー(家賃収入−現金支出−ローン元本返済)は一致しません。必ず両方を並べます。
- 減価償却とローン元本を取り違えない:減価償却は経費だが現金は出ず、ローン元本は現金は出るが経費にならない——この2つの混同が最も多い誤りです。
- 空室損失を先に引く:満室想定ではなく、稼働率90〜95%程度で保守的に見積もります。
以下では収支計算書の構成・作り方・確認頻度を順に解説します。本記事の表はそのまま自分の物件の数値を当てはめて使えます。
収支計算書(収支表)とはなぜ必要か
賃貸不動産を保有するオーナーが「実際にいくら手元に残っているか」を把握するには、家賃収入・経費・ローン返済・税金をまとめた**収支計算書(収支表)**が不可欠です。
ポータルサイトの「表面利回り○%」だけでは、実際のキャッシュフローは把握できません。収支計算書を作成することで以下が明確になります。
- 確定申告:不動産所得(収入 - 必要経費)の正確な計算
- 金融機関向け説明資料:融資審査・追加融資の際に提出
- 自己判断:追加投資・売却・修繕判断のための数値根拠
収支計算書の基本構成
賃貸不動産の収支計算書は、大きく「収入の部」「支出の部」「キャッシュフロー計算」の3段構成で整理します。
収入の部
| 項目 | 月額 | 年間 |
|---|---|---|
| 家賃収入(満室時) | ||
| 空室損失(稼働率差引) | ||
| 実際の家賃収入合計 | ||
| 礼金・更新料 | ||
| 駐車場・自動販売機収入 | ||
| 収入合計 |
空室損失は「満室時想定収入 × (1 - 稼働率)」で計算します。稼働率の実績が把握できない場合は保守的に90〜95%を想定します。
支出の部(経費)
| 項目 | 月額 | 年間 |
|---|---|---|
| 管理委託料(家賃の3〜5%) | ||
| 固定資産税・都市計画税 | ||
| 建物管理費・修繕積立金(区分) | ||
| 火災保険・地震保険 | ||
| 修繕費・メンテナンス費 | ||
| 仲介手数料(入退去時・年間平均化) | ||
| 減価償却費 | ||
| ローン利息(元本除く) | ||
| その他(交通費・通信費等) | ||
| 経費合計 |
キャッシュフロー計算
| 項目 | 年間 |
|---|---|
| 収入合計 | |
| 経費合計(減価償却を除く現金支出) | |
| ローン元本返済 | |
| 実質手取りキャッシュフロー(税引き前) | |
| 所得税・住民税(概算) | |
| 税引き後手取りキャッシュフロー |
重要な計算上の注意点
1. 減価償却費は「経費」だが現金は出ない
確定申告上の「不動産所得」計算では、建物の減価償却費を必要経費として計上できます。しかし減価償却費は現金が出ない費用(非現金支出)です。
- 不動産所得(税務上):家賃収入 - 必要経費(減価償却含む)
- 実質キャッシュフロー(現金ベース):家賃収入 - 現金支出経費 - ローン元本返済
税務計算と現金収支は異なるため、収支計算書では両方を並べて管理することが重要です。
2. ローン返済の「元本」と「利息」を分けて記録する
ローンの毎月返済額は「元本返済」と「利息」に分かれます。
- 利息:必要経費(税務上)に計上可能
- 元本:経費に計上不可(資産の取得原価の返済)
ローン返済明細書(償還表)で元利の内訳を確認し、利息のみを経費に計上します。
3. 礼金・更新料は収益として計上
礼金・更新料は受け取った年度の収益として計上します(敷金は預かり金のため収益でない)。
4. 修繕費と資本的支出の区分
修繕費(現状回復)は全額経費計上、資本的支出(価値向上・耐用年数延長)は減価償却対象です。混同すると税務処理が変わるため、支出の性質を明確に記録します。
年間収支計算書の管理ツール
Excelスプレッドシート
最もシンプルな方法です。月次で家賃振込・経費・ローン返済を記録し、年末に集計します。
クラウド会計ソフト(freee・弥生会計オンライン)
銀行口座・クレジットカードと連携して自動仕訳が可能です。確定申告書類の作成も自動化できます。物件数が多い場合・法人化している場合に特に有効です。
管理会社の月次報告書を活用
管理会社に委託している場合、月次レポート(賃料明細・入出金報告)を受け取ります。これを集計すれば収支計算書の土台になります。
収支計算書を確認する頻度
| 頻度 | 確認内容 |
|---|---|
| 月次 | 家賃入金確認・異常な経費発生の把握 |
| 四半期 | 稼働率・年間ペースの試算・修繕費の予算消化確認 |
| 年次 | 全収支の集計・確定申告用の不動産所得計算・次年度の収支計画 |
よくある質問(FAQ)
Q. 賃貸経営の簡易収支だけでも把握できますか? A. 「家賃収入 − 主要経費 − ローン返済」の簡易版でも、大まかなキャッシュフローはつかめます。ただし減価償却を反映しないと税務上の不動産所得(=納税額の基礎)とはずれるため、確定申告を見据えるなら本記事の「税務」と「現金」の2軸で作成することをおすすめします。
Q. 収支計算書と収益計画書(事業計画書)は何が違いますか? A. 収支計算書は「実績・現状」を記録する表、収益計画書は「将来の見込み」を示す計画書です。融資審査では将来の返済可能性を示すため収益計画書が求められます。作り方は賃貸収支計画書の作り方と銀行融資審査への活用法で解説しています。
Q. 現金ベースの手取りがマイナスでも問題ないですか? A. 減価償却の影響で「税務上は黒字でも現金は赤字」あるいはその逆が起こり得ます。現金ベースで継続的にマイナスが続く場合は、賃料・空室・返済条件の見直しが必要です。改善手順は収益物件の収支改善ロードマップを参照してください。
Q. どの指標と一緒に見るべきですか? A. 収支計算書で手取りを把握したうえで、NOI(純収益)やDSCR(返済余裕率)を併用すると、物件の収益力と返済の安全度を数値で比較できます。購入前の採算ラインは損益分岐点計算と事業計画書の作成方法も合わせて確認しておくと安心です。
まとめ
賃貸不動産の収支計算書は「家賃収入 - 経費合計 = 不動産所得(税務用)」と「家賃収入 - 現金支出 - ローン元本返済 = 実質キャッシュフロー(現金ベース)」の2軸で管理することが重要です。
減価償却費とローン元本の取り扱いを誤ると、実態と乖離した数字で判断することになります。年間の収支計算書を正確に作成・管理することで、確定申告の正確性・金融機関への説明力・自身の投資判断の質が大幅に向上します。
