越境問題が収益物件に与える影響
収益物件を売買・活用する際に、思わぬ障害となるのが「越境問題」だ。越境とは、建物の軒先・屋根・配管・ブロック塀などが隣地の境界線を越えて存在している状態を指す。
越境問題が発覚するタイミングは、物件の売買時に実施する測量(確定測量)や、建替え・増改築の際の建築確認申請が多い。問題が複雑なのは、越境している側も越境されている側も、長年その状態に気づかないまま過ごすケースが多く、発覚時に感情的な対立を生みやすい点だ。
収益物件の場合、越境を放置すると次のような不利益が生じる。
売却時の障害:越境状態のまま売却しようとすると、買主の融資審査が通らないことがある。金融機関は越境を「法的リスク」として評価するからだ。
建替え・リノベ時の問題:建築確認申請や確認済証の取得において、越境が障害になることがある。
隣地との紛争リスク:隣地オーナーが変わった際に初めて越境を問題視されることがある。
越境問題を含む物件購入の注意点については初めての収益物件購入ステップガイドも参考にしてほしい。
越境の種類と確認方法
越境には大きく3種類がある。
物理的越境:建物の軒先・屋根・基礎・ブロック塀・フェンスなど、建物や工作物が境界線を越えている状態。
地下越境:排水管・給水管・電気系統の配管が地中で越境しているケース。地上では分からず、工事の際に発覚することが多い。
植栽越境:樹木の枝や根が越境しているケース。2023年の民法改正により、一定条件のもとで越境した枝を切除できる規定が整備された。
越境の有無を確認するためには、土地家屋調査士に依頼して「確定測量図」を作成してもらうのが基本だ。公図・登記簿・現況の境界標を照合し、正確な境界位置を特定する。費用は土地の規模や隣地数によって異なるが、一般的に30万〜80万円程度が目安となる。専門用語については用語集で確認しておくとよい。
筆界特定制度の活用
隣地との話し合いで境界が決まらない場合、法務局の「筆界特定制度」を活用する方法がある。筆界特定制度とは、土地の筆界(登記上の境界)を法務局が調査・特定する行政的な手続きで、2006年に導入された。
手続きの流れ
- 法務局(登記所)に申請(申請人は土地の所有者または共有者)
- 法務局の指定調査員(土地家屋調査士)が現地調査・測量を実施
- 関係者のヒアリング・書類調査
- 筆界特定登記官が筆界を特定し、筆界特定書を作成
筆界特定制度の利点は、裁判と比べて短期間(標準処理期間は申請から約6〜12か月)かつ費用が低いことだ。申請手数料は数千円〜数万円程度であり、訴訟コストより大幅に安い。
ただし、筆界特定の結果は「法的判断」ではなく「行政的判断」であり、相手方がその結果に不服申立てをして訴訟に移行することも可能だ。また、筆界と所有権界(実際の所有範囲)は必ずしも一致しないため、筆界特定後も所有権の争いが残ることがある。
越境問題の実務的な解決フロー
越境問題が発覚した場合の実務的な対応フローは以下のとおりだ。
ステップ1:事実確認 確定測量図または現況測量図を取得し、越境の範囲・箇所・程度を正確に把握する。
ステップ2:隣地との話し合い 越境の事実を共有し、解決策を協議する。感情的にならず、事実に基づいた冷静な交渉が重要だ。可能であれば土地家屋調査士や不動産コンサルタントを仲介者として立てることが望ましい。
ステップ3:覚書の締結 すぐに物理的な是正が難しい場合(例:建物の一部が越境しており解体できない等)は、「越境覚書」を締結することが現実的な解決策となる。覚書には、越境の事実の確認・現状維持の合意・将来的な解消義務(建替え時に是正する旨)を明記する。これにより、融資審査や売買時に覚書を添付することで越境リスクを軽減できる。
ステップ4:物理的是正 ブロック塀の移設・軒先の切除など、物理的に越境を解消する。費用負担は当事者間の合意で決める。
ステップ5:筆界特定・訴訟 話し合いが決裂した場合は、筆界特定制度の申請または境界確定訴訟を提起する。
投資家が購入前にすべき確認事項
越境問題は購入前の調査で多くが回避できる。収益物件を購入する際は、以下の点を確認しよう。
- 確定測量図が存在するか(存在しない場合は売主に作成を求める)
- 公図と現況に大きな差異がないか
- 隣地との間に覚書が存在する場合、内容を確認する
- 既存の越境がある場合、覚書に建替え時の是正義務が明記されているか
- 道路境界・官民境界(道路や水路との境界)も確定しているか
越境問題のある物件を購入する場合は、解決コストを考慮した価格交渉を行い、売買契約書に越境の事実と解決義務を明記することが重要だ。融資を受ける際は越境の状況が審査に影響するため、不動産投資ローンの基礎知識も合わせて確認しておくとよい。コラム一覧では物件管理・法律・トラブル対応に関する記事も幅広く掲載している。
