なぜ「グロス7%」が信用できないのか
収益物件の広告には「表面利回り7.5%」「グロス利回り8%」という数字が並びます。しかしこれらの数字は「経費ゼロの理想状態」を前提にした数値であり、実際の手残りとは大きく異なります。
問題は、経費率が物件タイプ・立地・管理状態によって大きく変わることです。「グロス7%でも経費率が40%なら実質4.2%、経費率30%なら実質4.9%」——この差は数百万円規模の投資判断に影響します。本稿では経費率30%と40%の差を実数値で徹底比較します。
グロス利回り・ネット利回りの計算式
グロス利回り(表面利回り) = 年間家賃収入 ÷ 物件購入価格 × 100
例:年間家賃収入240万円 ÷ 購入価格3,200万円 = 7.5%
ネット利回り(実質利回り) = (年間家賃収入 − 年間経費)÷ 物件購入価格 × 100
経費率30%の場合:(240万円 − 72万円)÷ 3,200万円 = 5.25% 経費率40%の場合:(240万円 − 96万円)÷ 3,200万円 = 4.50%
同じグロス7.5%でも、経費率の差でネット利回りに0.75%の開きが生じます。
経費の内訳——何が含まれるのか
収益物件の年間経費は以下の項目で構成されます。
固定的経費
変動的経費
- 修繕費: 年によってばらつきが大きい(平均3〜8%)
- 空室損失: 稼働率95%なら5%の機会損失
- 入退去費用(クリーニング・リフォーム): 年平均2〜5%
- 仲介手数料(入居者募集): 入居一時費用として月額分
経費率30% vs 40%:物件タイプ別の典型例
経費率30%が期待できる物件の特徴
経費率30%シミュレーション(年間家賃収入240万円の場合)
| 経費項目 | 金額 | 対家賃比率 |
|---|---|---|
| 管理委託費 | 15万円 | 6.3% |
| 固定資産税等 | 22万円 | 9.2% |
| 火災保険 | 2万円 | 0.8% |
| 修繕費・雑費 | 7万円 | 2.9% |
| 空室損失(稼働96%) | 10万円 | 4.2% |
| その他 | 16万円 | 6.6% |
| 合計 | 72万円 | 30% |
年間手取り(経費後): 168万円
経費率40%になる物件の特徴
経費率40%シミュレーション(年間家賃収入240万円の場合)
| 経費項目 | 金額 | 対家賃比率 |
|---|---|---|
| 管理委託費 | 17万円 | 7.1% |
| 固定資産税等 | 25万円 | 10.4% |
| 火災保険 | 3万円 | 1.3% |
| 修繕費(積立含む) | 24万円 | 10.0% |
| 空室損失(稼働92%) | 19万円 | 7.9% |
| その他(仲介費等) | 8万円 | 3.3% |
| 合計 | 96万円 | 40% |
年間手取り(経費後): 144万円
経費率10%の差で年間24万円、10年間で240万円の収益差が生まれます。
ローン返済後のキャッシュフロー(CF)計算
ネット利回りだけでなく、ローン返済後の実際のCFを計算することが不可欠です。
前提条件
- 購入価格: 3,200万円
- 借入: 2,560万円(LTV 80%)
- 金利: 2.0%固定、返済期間25年
- 年間ローン返済額: 約130万円(元利均等)
経費率30%のCF: 168万円 − 130万円 = 年間38万円(月3.2万円) 経費率40%のCF: 144万円 − 130万円 = 年間14万円(月1.2万円)
同じ物件・同じ借入条件でも、経費率の違いで月のCFが3.2万円と1.2万円に分かれます。
投資判断の閾値設定——最低限必要なネット利回りは何%か
借入を使った投資の場合、「ネット利回り > ローン金利」を最低ラインとして、実際には「ネット利回り − ローン金利 ≥ 1.5〜2.0%」のイールドギャップを確保することが一般的な目安です。
イールドギャップの計算例
ローン金利2.0%の場合、ネット利回りの最低目標は3.5〜4.0%以上。
前述のシミュレーションで、グロス7.5%・経費率40%のネット利回り4.5%は最低ラインをわずかに上回る水準です。修繕費がさらに増えたり空室が長引いたりすると、イールドギャップがすぐに縮小します。
地域別の目安
- 東京23区・大阪市中心部:競争が激しく価格が高いため、グロス5〜6%が多い。経費率が低ければネット3.5〜4%程度は見込める
- 地方都市(政令指定都市):グロス7〜9%帯が多い。経費率が高くなりやすく、ネット5〜6%が確保できるか確認が必要
- 地方小都市・過疎エリア:グロス10%超でも経費率50%超になるケースがあり、実質的な収益が薄い場合が多い
まとめ:経費率を物件ごとに試算する習慣
「グロス利回りだけで投資判断する」のは典型的な失敗パターンです。物件購入前に経費の各項目を個別に試算し、経費率30〜40%のどちらに近いかを判断することが、収益予測の精度を高める第一歩です。
特に築年数が上がるほど修繕費と空室リスクが増加し、経費率が30%から40%以上に上がりやすいことを念頭に、購入価格交渉・融資条件交渉に臨むことが重要です。
