東京23区における利回り格差の現状
東京都内の不動産投資は「利回り」と「需要の安定性」のトレードオフが顕著に現れます。特に23区内では区ごとに賃貸需要の強さが異なり、同じ築年数・面積の物件でも所在地により利回りが大きく変わります。
区別利回りの大まかな分類
高利回りエリア(5.5~7.0%)
- 足立区、葛飾区、江戸川区などの東部
- 北区、板橋区などの北部
- 理由:購入価格が低い、ファミリー向け賃貸需要が堅調
中程度利回りエリア(4.5~5.5%)
- 杉並区、世田谷区などの南西部
- 中野区、練馬区などの西部
- 特徴:人気エリアながら、郊外より購入価格が抑えられている
低利回りエリア(3.0~4.5%)
- 渋谷区、新宿区、港区などの都心
- 中央区、千代田区などの中心商業地
- 理由:地価が高い、単身向け・ビジネス客向け需要が中心
利回り差の大きさは「地価÷賃料」の式で説明できます。都心は地価が高いため、同じ賃料でも利回りが低くなる構造です。
各エリアの特性と投資判断
東部エリア(足立区・葛飾区・江戸川区)
利回り特性
メリット
- 購入価格が安い(1000~2000万円帯の1R~1LDK)
- ファミリー向け需要が堅調で入居者がいやすい
- 複数物件取得による資産分散が容易
デメリット・リスク
- 駅距離による賃料減衰が大きい(駅から15分以遠は賃料が急落)
- 建物の老朽化進行が早い物件も多い
- 再開発による地域変化の予測が難しい
実務ポイント
- 駅徒歩10分以内の物件に限定する
- 竣工年が新しい(築15年以内)か、大型リフォーム済みを選ぶ
- 区全体の人口動態(子ども数の増減)を確認する
西部エリア(杉並区・世田谷区・中野区)
利回り特性
- 表面利回り:4.5~5.5%
- 実質利回り:3.5~4.5%
メリット
- 住環境が良く、長期入居者が多い傾向
- ファミリー層・新婚夫婦の需要が安定
- 物件の資産価値下落が比較的緩い
デメリット・リスク
実務ポイント
- キャッシュフロー重視ではなく、長期保有・資産価値維持を前提にする
- 新築プレミアム(竣工直後)を避け、築3~5年の中古物件を狙う
- 駅からの距離は比較的許容しやすい(西部は駅距離による減衰が東部ほど急ではない)
都心エリア(渋谷区・新宿区・港区・千代田区)
利回り特性
- 表面利回り:3.0~4.0%
- 実質利回り:2.0~3.5%
メリット
- 単身層・転勤層の需要が非常に安定している
- 物件が売却しやすい(流動性が高い)
- 金融機関の評価が高く、融資を受けやすい
デメリット・リスク
実務ポイント
- 利回りだけで判断すると失敗する
- 都心物件を購入する場合は、複数の融資を組み合わせた「多層融資」戦略を採る
- または「共有持分」「複数戸保有」で出口戦略を確保しておく
駅距離による賃料減衰パターン
同じ区内でも駅距離は賃料に大きく影響します。
東部・北部の典型的な減衰
- 駅徒歩5分:基準賃料 100%
- 駅徒歩10分:基準賃料 95~98%
- 駅徒歩15分:基準賃料 85~90%
- 駅徒歩20分:基準賃料 75~85%
- 駅徒歩30分:基準賃料 60~75%(マイナス25~40%)
駅徒歩15分を超えると、賃貸需要が急に下がり、空室リスクが高まります。特にファミリー向けのアパート・マンションでは、駅距離が重視されるため注意が必要です。
西部・南西部の減衰パターン
- 西部は駅距離による減衰が緩い傾向があります。駅徒歩20分でも90~95%の賃料が取れる区が多いです。理由は「住環境の良さ」が駅距離を補うためです。
区別の人口動態と投資タイミング
過去10年の人口増減も投資判断の重要な指標です。
人口増加区(供給不足)
- 江東区、中央区:再開発による新築供給増も人口増に追い付かない
- 江戸川区:湾岸再開発で新居民が流入
人口減少区(供給過剰)
- 足立区、葛飾区:緩やかな人口減(利回りは変わらないが、長期的に注視)
- 北区、板橋区:人口減が顕著
人口減少区での投資は「現況利回りの高さ」に頼りすぎると、10年後の家賃値下げリスクに直面します。
実例:23区内での物件比較シミュレーション
同じ条件(築15年、1LDK、60㎡)で3パターン比較:
パターンA:足立区・駅徒歩8分
パターンB:世田谷区・駅徒歩12分
- 購入価格:2200万円
- 想定賃料:8.5万円/月
- 表面利回り:4.6%
- 管理費・修繕積立金:10000円/月
- 実質利回り:3.2%(年間キャッシュフロー:約30万円)
パターンC:渋谷区・駅徒歩5分
- 購入価格:3500万円
- 想定賃料:10万円/月
- 表面利回り:3.4%
- 管理費・修繕積立金:12000円/月
- 実質利回り:2.0%(年間キャッシュフロー:約18万円)
利回りだけで見ればAが優位ですが、融資を活用した場合のキャッシュフロー・出口戦略も含めて判断すると、一概には言えません。
物件選定の意思決定フレームワーク
- 利回り目標を決める:年間キャッシュフロー○○万円が必要か、資産価値を最優先にするか
- 融資可能性を確認:融資可能額と返済比率(年収の30~40%以内)をシミュレーション
- 地域の人口動態を確認:過去10年の増減率、今後の再開発予定
- 駅距離と賃料の関係を現地調査:オンラインの相場だけでなく、実際に駅から物件を歩く
- 出口戦略を想定:10年後に売却する場合、利回りが保たれているか、地価は維持されているか
まとめ
東京23区内の利回り格差は、地価・賃料・人口動態の複合要因で形成されます。高利回り物件を求めて東部に投資するのも、安定性を重視して西部に投資するのも、戦略次第で正解です。重要なのは「なぜこのエリアを選ぶのか」という根拠を持つことです。
現地調査・人口データ・融資シミュレーションの3つを組み合わせることで、区別の利回り格差を投資の優位性に変えることができます。
