収益物件の相続で何が問題になるか
収益物件(賃貸アパート・マンション・一棟ビル等)を所有するオーナーが亡くなった場合、物件は相続財産として相続税の課税対象になります。収益物件相続における主な問題は以下のとおりです。
1. 多額の相続税 土地・建物・借入金が複雑に絡み合い、不動産評価額が高くなると相続税が多額になります。
2. 物納・売却の強制 相続税の納税資金が手元にない場合、物件を売却または物納せざるを得ない状況になります。収益物件を手放すと、その後の賃料収入が失われます。
3. 共有相続による物件管理の混乱 複数の相続人に共有相続された場合、修繕・売却・リノベーションなど管理上の意思決定が複雑になります。
収益物件の相続税評価の基本
土地の評価(路線価方式)
賃貸用の土地は「貸付事業用宅地」として評価されます。自用地評価額に「借地権割合」と「借家権割合」を考慮して評価減が行われます。
貸家建付地の評価式 自用地評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
例:自用地評価5,000万円、借地権割合60%、借家権割合30%、賃貸割合100%の場合 5,000万円 × (1 - 0.6 × 0.3 × 1.0) = 5,000万円 × 0.82 = 4,100万円
自用地比較で18%の評価減が得られます。
建物の評価(固定資産税評価額ベース)
賃貸中の建物は、固定資産税評価額から「借家権割合(30%)」を差し引いた額が評価額となります。
賃貸物件の建物評価式 固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)
例:固定資産税評価3,000万円、賃貸割合100%の場合 3,000万円 × (1 - 0.3) = 2,100万円
自用建物(空き家)より30%低く評価されます。
小規模宅地等の特例
相続税における最大の優遇措置の一つが「小規模宅地等の特例」です。
貸付事業用宅地(賃貸物件の敷地)の場合
- 適用上限:200m²まで
- 評価減:50%
例えば200m²の賃貸アパート敷地の評価が4,000万円だった場合、特例適用で2,000万円の評価減になります。この評価減を相続税率(仮に30%)に当てはめると、最大600万円の相続税節減効果があります。
適用要件(貸付事業用宅地)
- 被相続人が賃貸事業を行っていた土地
- 相続開始前3年超継続して貸付事業を行っていること(2018年4月以降の取得物件)
- 相続人が相続後も貸付事業を継続すること
相続税対策の全体像については不動産投資と節税の基礎も参考にしてください。
事業用資産の納税猶予制度
2019年度税制改正で拡充された「個人版事業承継税制(事業用資産の納税猶予)」は、主に個人事業主(青色申告)が対象ですが、不動産賃貸業でも適用できる場合があります。2026年現在も制度の骨格は維持されており、事前の計画立案が重要です。
制度の概要 後継者が先代事業者から事業用資産を相続・贈与により取得した場合、事業用資産に係る相続税・贈与税の全額の納税が猶予(一定要件下で免除)される制度です。
適用要件(不動産賃貸業の場合)
- 先代(被相続人)が青色申告で不動産賃貸業を営んでいた
- 後継者が事業を継続する(5年間の事業継続要件あり)
- 都道府県知事への「承継計画」提出が必要
- 特定事業用宅地として小規模宅地特例との選択適用(有利な方を選択)
ただし、単純な賃貸不動産所有(「不動産所得」の申告のみ)では「事業」として認定されない場合もあります。事前に税理士・税務署に確認することが必要です。
生前対策の実務
相続が起きてからでは取れる手段が限られます。生前にできる対策を整理します。
対策①:資産管理法人への移管
生前に資産管理会社(合同会社・株式会社)を設立し、収益物件を法人に移管することで、相続財産を「非上場株式」として扱えます。株式は物件の実態価値より評価額が圧縮されやすく、相続税対策として有効です。
また、相続人に少しずつ株式を贈与することで、生前の財産移転も可能になります。
対策②:生命保険の活用
生命保険の死亡保険金は「500万円 × 法定相続人数」が非課税になります。相続税の納税資金として生命保険を活用することで、物件を売却せずに済む可能性が高まります。
対策③:遺言書の作成
遺言書で収益物件を誰に相続させるかを明確にしておくことで、共有相続による管理混乱を防げます。不動産管理の実務を担える相続人に物件を集中して相続させる「集中承継」が推奨されます。
対策④:計画的な借入れ
収益物件の取得時に借入れを活用することで、相続財産の総額が圧縮されます(債務控除の活用)。ただし過度な借入れは資金繰りリスクを伴うため、キャッシュフロー管理と並行して計画することが必要です。
まとめ
収益物件の相続対策は「評価額の圧縮」「特例・猶予制度の活用」「生前の財産移転」の3本柱で考えることが基本です。特に小規模宅地等の特例は強力な節税効果がありますが、適用要件を満たすかどうかは事前確認が必須です。
相続税の申告期限は相続開始から10ヶ月と短く、対策が後手に回ると選択肢が狭まります。早めに相続専門の税理士に相談し、生前から計画的に対策を講じることが最大の節税につながります。
