自宅を貸すことになったときに直面する論点
転勤や住み替え、実家の相続などをきっかけに、それまで自分で住んでいた自宅を賃貸に出して収益物件として活用するケースは少なくありません。この場合、購入時に想定していなかった不動産所得の計算という新しい論点に直面することになります。中でも実務上つまずきやすいのが、建物の取得費をどう按分して減価償却費を計算するか、という点です。
自宅として使っていた期間と、賃貸に転用してからの期間とでは、減価償却の考え方が異なります。自宅として使用していた期間の減価に相当する分は、賃貸開始後の減価償却の計算に反映させる必要があるため、単純に購入価格をそのまま賃貸開始後の耐用年数で割るというわけにはいきません。
非事業用資産としての減価の計算
自宅のように事業の用に供していなかった期間については、通常の事業用資産の減価償却よりも緩やかな計算方法(非事業用資産の減価の額の計算)が用いられます。具体的には、法定耐用年数の1.5倍の年数を使って、旧定額法に準じた方法で減価の額を計算し、取得価額からその減価分を差し引いた金額を、賃貸開始時点での未償却残高とみなして、そこから賃貸用としての減価償却をスタートさせる、という流れになります。
この計算は建物の構造や取得時期によって細かい違いがあるため、正確な金額は国税庁の資料や税理士への確認をもとに算出することが望ましい領域です。おおまかな考え方として押さえておきたいポイントは次のとおりです。
- 自宅として使っていた期間は、賃貸用よりもゆるやかな速度で価値が減っていくとみなして計算する
- 賃貸開始時点の建物の価値(未償却残高)を算出し、そこから賃貸用の減価償却が始まる
- 土地部分は減価償却の対象外であり、按分の対象は建物部分に限られる
取得費按分で必要になる資料
自宅から賃貸への転用にともなう減価償却の計算では、購入時の資料を整理しておくことが欠かせません。次のような資料が手元にあるかを、賃貸を検討し始めた段階で確認しておくとスムーズです。
- 購入時の売買契約書(建物と土地の価格が分かれて記載されているか)
- 建築確認済証や登記事項証明書など、建物の構造・築年月が分かる資料
- 増改築やリフォームを行っている場合は、その工事の請負契約書と金額
- 消費税の課税事業者からの購入であれば、消費税額から建物価格を逆算できる資料
売買契約書に建物と土地の価格が分けて記載されていない場合は、固定資産税評価額の比率などを用いて按分計算をすることになります。この按分の考え方をあらかじめ理解しておくと、確定申告の時期になって慌てずに済みます。
賃貸開始後に必要な手続き
自宅を賃貸に出すと、税務上は不動産所得が発生することになるため、確定申告が必要になります。事業的規模に至らない小規模な賃貸であっても、青色申告の要件を満たせば控除のメリットを受けられる場合があります。青色申告の基本については青色申告のメリットと手続き|最大65万円控除を活用する方法で整理していますので、あわせて確認してみてください。
また、建物本体だけでなく、給湯器やエアコンなどの付属設備についても、本体と分けて個別に減価償却を計算することで、初年度の必要経費を厚くできる場合があります。設備の個別償却の考え方は付属設備の個別減価償却で節税効果を最大化する実務ガイドを参考にしてください。
住宅ローン控除を受けていた場合の注意点
住宅ローンを利用して自宅を取得し、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の適用を受けていた場合、自宅を賃貸に転用すると、その年以降は原則として住宅ローン控除の適用対象から外れます。住宅ローン控除は自ら居住する住宅であることを要件としているため、賃貸に出した時点で要件を満たさなくなるのが基本的な考え方です。控除期間の途中で転勤等により賃貸に出さざるを得なくなるケースもありますが、その場合の取り扱いには一定の特例が設けられていることもあるため、金融機関や税理士に転居・賃貸の予定を早めに伝え、控除の扱いを確認しておくことが望まれます。
まとめ
自宅を賃貸に転用する際の減価償却は、購入時からの経過年数や自宅として使っていた期間を踏まえて未償却残高を算出するところから始まる、通常の投資用物件取得とは異なる計算プロセスをたどります。売買契約書など必要な資料を早めに整理し、按分の考え方に不安がある場合は税理士に相談しながら確定申告の準備を進めることが、転用後のスムーズな不動産所得の申告につながります。
