賃料の収入計上時期がずれると何が起きるか
不動産所得の申告では、「いくら入ったか」だけでなく「いつの収入とするか」が重要になります。同じ賃料でも、どの年の収入にするかによって、その年の所得や税額が変わるためです。とくに12月と1月をまたぐ家賃、年末に入金された更新料、返還が不要と確定した敷金などは、計上する年を間違えやすい項目です。
会社員が副業として賃貸経営をしている場合、通帳の入金日をそのまま収入の日付として処理してしまうケースも見られます。しかし、税務上の考え方は入金日だけで決まるわけではありません。この記事では、国税庁の案内に沿って、賃料・共益費、礼金・権利金、更新料、敷金・保証金、滞納家賃といった項目ごとの収入計上時期を整理します。
なお、この記事は一般的な考え方をまとめたものです。契約内容や取引の実態によって扱いが変わる場合があるため、実際の申告では、税務署や税理士に確認してください。
基本原則|「収入すべき権利が確定した」時点で考える
所得税の収入金額は、その年において収入すべき金額とされ、年末までに現実に金銭を受け取っていなくても、「収入すべき権利の確定した金額」であれば、その年の収入になります。国税庁のNo.2200 収入金額とその計算では、収入の時期は取引の内容、契約条件、慣習などをもとに判定するとされています。
この原則を賃貸経営にあてはめると、次のようになります。
- 「入金された日」ではなく、「契約や慣習で支払日が決まっているならその日」を基準に考えるのが出発点です。
- 支払日が決まっていない場合は、実際に支払を受けた日を基準にします。
- 入金が遅れていても、契約上の支払日が到来していれば、その賃料は収入すべき権利が確定していると整理されます。
ただし、滞納が長期化して回収が難しい場合の扱いは、貸倒れに関する別の論点になります。個別の事情が絡むため、判断が必要な場面では税理士への相談をおすすめします。
賃料・共益費の計上時期
家賃、地代、共益費の収入計上時期は、国税庁のNo.1376 不動産所得の収入計上時期に整理されています。
- 契約や慣習などにより支払日が定められている場合は、その定められた支払日に計上します。
- 支払日が定められていない場合は、実際に支払を受けた日に計上します。ただし、請求があったときに支払うことと定められているものは、その請求の日に計上します。
- 賃貸借契約の存否などをめぐる係争で、判決や和解などによって受け取ることになった、係争期間中の賃貸料相当額は、その判決や和解などのあった日に計上します。
たとえば、契約で「毎月末日までに翌月分を支払う」と定められている場合は、12月末が支払日となる翌年1月分の家賃は、原則としてその年の12月の支払日に収入すべき権利が確定すると整理されます。実際に振り込まれたのが翌年1月4日であっても、契約上の支払日が12月末なら、12月分の収入として扱う考え方になります。
年末をまたぐ前払い分や、月の途中で契約した場合の日割り賃料など、年をまたぐ金額の処理は、契約の書き方によって結論が変わり得ます。賃貸借契約書の支払日の条項を確認したうえで、迷う場合は税務署や税理士に確認してください。
礼金・権利金・更新料の計上時期
礼金や権利金、更新料は、賃料とは別の名目で受け取る金銭ですが、いずれも不動産所得の総収入金額に含まれます。国税庁のNo.1370 不動産収入を受け取ったときには、名義書換料、承諾料、更新料、頭金などの名目で受領するものが、総収入金額に含まれる項目として挙げられています。
計上時期は、No.1376で次のように整理されています。
- 権利金や礼金のうち、貸し付ける資産の引渡しを必要とするものは、その引渡しのあった日に計上します。
- 引渡しを必要としないものは、契約の効力が発生した日に計上します。
- 更新料は、家賃や地代と同様に、契約や慣習などにより支払日が定められていればその日、定められていなければ実際に支払を受けた日に計上します。
賃貸経営では、礼金は入居時に、更新料は契約更新時に受け取ることが一般的です。年末に近い時期に入居や更新が重なると、収入計上時期によってその年の所得額が変わるため、契約日と引渡日、入金日をそれぞれ記録しておくことが重要です。
敷金・保証金の扱い|預り金と収入の分かれ目
敷金や保証金は、退去時に返還することを前提とした預り金です。国税庁のNo.1376では、預り金であるため、受け取っても収入にはならないと説明されています。
ただし、返還を要しない部分がある場合は、収入として扱います。
- 敷金や保証金のうち、返還を要しないもの(いわゆる敷引きや償却にあたる部分など)は、返還を要しないことが確定した日に、その金額を収入に計上します。
- 退去時の精算で、原状回復費用などを敷金から差し引く場合の税務上の扱いは、契約内容や精算の実態によって変わるため、精算書を整えたうえで税理士に確認するのが安全です。
敷金のうち返還が不要になる部分があるかどうかは、賃貸借契約書の条項で決まります。退去時に精算する際は、預り金が返還不要と確定した日付と金額を、精算書などで残しておくと、申告の根拠資料になります。退去時の精算実務は、賃貸物件の退去立会いの実務ガイドもあわせて参考にしてください。
実務で迷いやすいケースと帳簿の残し方
ここまでの原則を踏まえ、賃貸経営者が迷いやすい場面を整理します。
- 年末年始の家賃入金:契約上の支払日を確認します。支払日が12月なら、入金が翌年でも12月の収入という整理になり得ます。
- 家賃の滞納:契約上の支払日が定められているなら、前述の基準に沿って支払日を基準に考えることになります。回収不能と判断される事情がある場合は、別の検討が必要です。
- 賃料の増額をめぐる争い:係争中の賃料相当額は、判決や和解などのあった日に計上するのが基本です。
- 礼金と敷金が混在する契約:契約書の名目だけでなく、返還の要否を確認して区分します。
- 所有者が複数の場合:共有名義の物件では、持分に応じた収入の計上と、代表者が入金を管理する場合の按分に注意します。
帳簿の面では、次の記録を残しておくと、年末の申告作業や税務調査での説明がしやすくなります。
- 賃貸借契約書(支払日、礼金、更新料、敷金の返還条件が分かるもの)
- 家賃の入金履歴と、契約上の支払日を対応させた一覧表
- 礼金、更新料、敷金精算の入出金明細と精算書
- 退去時の立会い記録と、原状回復費用の請求書
収入と経費の区分を含む年間の実務は、収益物件オーナーの確定申告前チェックリストにも整理しています。初めて確定申告をする方は、収益物件を初めて取得した年度の確定申告実務もあわせて確認してください。
まとめ|契約書の「支払日」と「返還の要否」を起点に整理する
不動産所得の収入計上時期は、入金日ではなく、収入すべき権利が確定した時点で考えるのが原則です。家賃や共益費、更新料は契約や慣習で定められた支払日、それがなければ実際に支払を受けた日が基準になります。礼金や権利金は、資産の引渡しの要否によって、引渡しの日か契約の効力発生の日に計上します。敷金や保証金は預り金であり、返還を要しないことが確定した日に収入となります。
毎年の申告で迷わないためには、契約書の支払日、礼金・更新料の条項、敷金の返還条件を最初に確認し、入金履歴と対応させて記録しておくことが役立ちます。判断が分かれるケースは、国税庁の案内を確認したうえで、税務署や税理士に相談してください。
