賃料増額請求とは何か
賃料増額請求とは、賃貸人(大家)が借地借家法に基づき、現行賃料が周辺相場や経済事情に照らして不相当になった場合に、賃料の引き上げを請求できる権利のことです。
近年の物価上昇・建築費高騰・周辺相場の上昇を背景に、長期間据え置かれた家賃の見直しを検討するオーナーが増えています。2026年現在、資材費・人件費の上昇が続く中、適正賃料への引き上げは収益物件の収益力維持において重要な経営判断となっています。
賃料増額請求の法的根拠
借地借家法第32条は、以下の事由に該当する場合に賃料増減額請求が認められると規定しています。
増額請求が認められる主な事由:
- 土地・建物に対する公租公課(固定資産税等)の増加
- 土地・建物の価格の上昇その他の経済事情の変動
- 近傍同種の建物の賃料に比較して不相当になったとき
これらのいずれかに該当すれば、賃料増額請求の正当な根拠となります。ただし、賃貸借契約に「一定期間は増額しない」特約がある場合は、その期間中は増額請求できません。
実務の手順
Step 1:現行賃料と周辺相場の比較
まず、現行賃料と周辺の類似物件の家賃相場を比較します。不動産ポータルサイト(SUUMO・HOME'S等)や地域の不動産業者に依頼して市場調査を行います。賃料推定ツールを活用することで、エリアの相場感を素早く把握できます。
調査で確認する項目:
Step 2:増額の相当性の確認
増額請求する金額が周辺相場と比べて合理的な範囲であるかを確認します。一般的に、周辺相場と比べて現行賃料が明らかに低い状況(10〜20%以上の乖離)でないと交渉は難しいことが多いです。
Step 3:入居者への通知(書面推奨)
増額交渉は口頭ではなく書面(内容証明郵便が望ましい)で行います。書面には以下を記載します。
- 増額の理由(相場との乖離・物価上昇等)
- 増額を求める新賃料
- 増額の希望開始日
重要: 増額請求は「協議の申し入れ」であり、入居者が同意しない限り一方的に増額はできません。入居者が同意しない場合は従前の賃料が有効です。
Step 4:協議・交渉
書面送付後、入居者との協議に入ります。入居者が増額に難色を示す場合は、以下のアプローチが有効です。
協議不調の場合:調停・裁判の流れ
入居者が増額に応じない場合、借地借家法の定める手続きを経ることになります。
調停(まず調停申立が必要)
賃料増減額の訴訟を起こすには、原則として先に**裁判所での調停(民事調停)**を申し立てる必要があります(調停前置主義)。
- 申立先:対象物件の所在地を管轄する簡易裁判所
- 費用:申立手数料は請求額に応じて数千円〜数万円程度
- 期間:数か月〜半年程度
調停で合意が成立すれば、その内容が賃料として確定します。
裁判(調停不成立の場合)
調停が不成立の場合、地方裁判所に賃料増額の訴訟を提起できます。裁判では不動産鑑定士による鑑定評価が証拠として重視されます。
賃料鑑定費用の目安: 30万〜60万円程度
裁判は時間(1〜2年以上)と費用がかかるため、少額の増額幅では費用倒れになることがあります。裁判に進む前に弁護士に相談して費用対効果を確認することが重要です。
注意点:逆効果になる交渉
入居者を追い出す目的での過剰な増額請求は逆効果: 現実的でない高額の増額請求は、入居者から「不当な増額請求」として拒否されるだけでなく、信頼関係を損ない退去・空室につながることがあります。
更新時の交渉が最もスムーズ: 普通借家の更新時(2年ごとが多い)に増額の協議を持ちかけることが最もスムーズです。更新拒否とセットで交渉することで、入居者に現実的な判断を促しやすくなります。賃料増額に成功した場合の収益改善効果はキャッシュフローシミュレーターで試算できます。
まとめ
賃料増額請求は借地借家法上の正当な権利ですが、一方的に強制できるものではなく、入居者との合意が前提です。周辺相場の調査・書面による丁寧な通知・段階的な増額提案という実務的な手順を踏むことで、合意率を高めることができます。調停・裁判は最終手段として位置づけ、費用対効果を見極めた上で判断することが重要です。増額後の収益計画については収益シミュレーションツールを活用して長期の収支を見通しましょう。
