オーナーチェンジ物件によくある誤解
オーナーチェンジ物件を購入すると、入居者との賃貸借契約上の地位(賃貸人としての地位)は新オーナーに引き継がれます。そのため「入居者に関することは全部そのまま引き継がれる」と考えてしまいがちですが、実務上、注意が必要なのが未収賃料(滞納家賃)の扱いです。
賃貸人の地位の移転と、既に発生している賃料債権(すでに滞納として発生してしまった過去分の賃料を請求する権利)は、法律上は別のものとして扱われます。原則として、売買契約時点までに発生していた未収賃料の請求権は前オーナーに帰属したままであり、物件の所有権移転だけで自動的に新オーナーへ移るわけではありません。
原則としての整理
賃貸借契約における賃貸人の地位は、建物の所有権移転にともなって新所有者へ引き継がれるのが原則です。したがって、引き渡し後に発生する賃料を受け取る権利は新オーナーのものになります。一方で、引き渡し前の未払い分については、次のような整理になるのが一般的です。
- 引き渡し前に発生した未収賃料の請求権は、原則として前オーナー(売主)に残る
- 新オーナーが当然に過去の滞納分を請求できるわけではない
- 前オーナーから新オーナーへ債権を移すには、別途「債権譲渡」の手続きが必要になる
この整理を知らずに物件を取得すると、入居者が家賃を数か月滞納していたので回収したいと思っても、契約上の手当てがなければ新オーナーが単独でその滞納分を請求する法的根拠を持たない、という事態になりかねません。
売買契約での手当ての考え方
未収賃料の扱いを曖昧にしたまま引き渡しを迎えると、後になって誰が滞納分を回収するのかで認識の齟齬が生じやすくなります。実務では、売買契約書や重要事項の中で、次のような点をあらかじめ整理しておくことが望まれます。
- 引き渡し日時点での未収賃料の有無と金額を、レントロールなどの資料で明示する
- 未収賃料に関する債権を売主に残すのか、譲渡を受けて買主が回収するのかを明記する
- 譲渡を受ける場合は、債権譲渡通知など入居者への対抗要件を誰がいつ行うかを定める
- 敷金の承継額と未収賃料の相殺可否についても、あわせて条項に落とし込む
特に4の敷金との関係は見落とされやすいポイントです。滞納賃料がある入居者の敷金を、退去時にどちらのオーナーの取り分として清算するのかは、契約書上の手当てがないとトラブルの火種になります。
保証会社・保証人がついている場合の扱い
入居者に家賃保証会社や連帯保証人が付いている場合、滞納賃料の保証範囲や請求先も確認しておく必要があります。保証会社によっては、保証委託契約上の債権者が変更になる手続き(契約上の地位の承継や再契約)を求めるケースもあるため、オーナーチェンジのタイミングで保証会社側の手続きも並行して確認しておくと安心です。滞納対応そのものの基本的な流れは家賃滞納対応の実務と保証会社の選び方でも整理しています。
買主として確認しておきたいチェックポイント
オーナーチェンジ物件を検討する際は、表面利回りや現況入居率だけでなく、未収賃料の有無とその引き継ぎ方針まで含めて確認する習慣をつけておくと、取得後のトラブルを避けやすくなります。契約不適合責任や告知義務の考え方とあわせて、収益物件売却における契約不適合責任と告知義務の実務も参考になります。
賃料の日割り精算との関係
オーナーチェンジの引き渡し日には、その月の賃料を売主・買主でどう配分するかという賃料の日割り精算も同時に発生します。未収賃料の承継とこの日割り精算は別の論点ですが、実務上はまとめて売買契約書の条項に落とし込まれることが多いため、混同しないよう整理しておくことが大切です。日割り精算はあくまで引き渡し月の通常収受分の配分であり、それ以前から滞納している未収賃料とは性質が異なります。契約書のひな形をそのまま使い回すと、この2つの精算方法が曖昧なまま一つの条項にまとめられてしまうことがあるため、仲介会社に依頼する際は、日割り精算と未収賃料の扱いを別々の条項として明記してもらうよう依頼するとよいでしょう。
まとめ
オーナーチェンジ物件では、賃貸人としての地位は引き渡しとともに新オーナーへ移りますが、引き渡し前に発生した未収賃料の請求権は当然には移転しません。取得を検討する際は、レントロールで滞納の有無を確認し、必要であれば売買契約書の中で債権の扱いを明確にしておくことが、後々のトラブルを防ぐための実務上のポイントになります。
