フルローンで新築の収益物件を購入し、初年度の減価償却や諸費用で不動産所得が大きな赤字になった場合、その赤字を給与所得と損益通算して所得税・住民税の還付を受ける、という節税スキームを耳にしたことがある方は多いはずです。しかし、この損益通算には見落とされがちな例外があります。それが、租税特別措置法41条の4に定められた「土地等を取得するために要した負債の利子の額に相当する部分の金額は他の所得と損益通算できない」というルールです。
損益通算の基本と例外のしくみ
不動産所得の計算上生じた損失は、原則として給与所得や事業所得など他の所得と合算(損益通算)することができ、結果として課税所得全体が圧縮されます。しかし、その損失の中に「土地等を取得するために要した負債の利子」に相当する金額が含まれている場合、その部分だけは損益通算の対象から除外され、無かったものとして扱われます。つまり、赤字の金額がそのまま他の所得と相殺できるわけではなく、赤字の内訳のうち建物取得に対応する借入金利子部分だけが通算の対象になり、土地取得に対応する部分は切り離されて計算されるということです。
建物取得の利子は対象外という誤解に注意
このルールでしばしば誤解されるのが、「建物取得のための借入金利子も制限されるのではないか」という点です。制限の対象になるのはあくまで土地等の取得に対応する借入金利子であり、建物の取得に対応する借入金利子は通常どおり損益通算の対象になります。1棟の収益物件をフルローンで購入した場合、借入金の中に土地相当分と建物相当分が混在しているため、契約書に記載された土地・建物それぞれの価格や、固定資産税評価額の比率などをもとに、借入金及びその利子を土地分・建物分に按分して計算する必要があります。この按分計算を誤ると、本来通算できるはずの建物分の利子まで制限してしまったり、逆に土地分の利子を通算してしまい申告内容に誤りが生じたりするため、契約書の内訳を明確にしておくことが実務上のポイントになります。
新築1棟物件でよくある想定違いのパターン
土地の割合が高い新築物件やエリアでは、想定していたよりも損益通算による節税効果が小さくなることがあります。たとえば都心部や地価の高いエリアで新築の収益物件を取得すると、購入価格に占める土地の比率が地方物件よりも高くなる傾向があり、その分だけ損益通算の対象から外れる利子の割合も大きくなります。「フルローンで新築物件を買えば初年度は大幅な赤字が出て、その分だけ税金が戻ってくる」という単純な理解のまま物件を購入すると、実際に確定申告をした段階で想定より還付額が少なく、資金計画に狂いが生じるケースが見られます。物件購入前の段階で、土地・建物の価格按分と、それに基づく損益通算可能額のシミュレーションを行っておくことが重要です。
土地・建物の按分方法と確定申告での取り扱い
土地と建物の価格按分は、売買契約書に土地と建物の価格が別々に明記されていればその金額を基本としますが、記載がない場合や消費税額から逆算する必要がある場合には、固定資産税評価額の比率で按分する方法や、不動産鑑定士による鑑定評価を参考にする方法などが用いられます。確定申告においては、不動産所得用の青色申告決算書や収支内訳書に加えて、損益通算の対象とならない土地等取得に係る負債利子の金額を計算した明細を保存しておくことが望ましく、税務調査等で按分の根拠を求められた際にも説明できるようにしておく必要があります。按分方法によって通算できる利子の金額が変わってくるため、迷う場合は購入前・確定申告前のいずれの段階でも税理士に相談し、根拠のある按分方法を選択することが安全です。
資金計画・出口戦略への影響
このルールは単年度の税負担だけでなく、収益物件を長期保有する際の資金計画全体に影響します。土地の比率が高い物件ほど損益通算による還付効果が限定的になる一方で、土地は経年による価値の下落が建物より緩やかであることが多く、売却時の資産価値の残りやすさという別の側面も持っています。逆に建物比率が高い物件は初期の損益通算効果を得やすい反面、減価償却が進むにつれて経費計上できる金額が縮小し、保有後半になるほど納税額が増えていく傾向があります。物件を選ぶ際には、購入直後の節税効果だけに目を向けるのではなく、保有期間全体を通じたキャッシュフローと税負担の推移、そして売却時の譲渡所得課税まで含めた長期シミュレーションを行うことが欠かせません。
融資審査・金融機関への説明でも意識したい点
金融機関に融資を申し込む際、事業計画書や収支シミュレーションの中で「初年度の赤字と税還付を前提とした資金繰り」を説明することがありますが、土地取得分の利子が損益通算の対象外になることを理解せずに還付額を過大に見積もっていると、金融機関側の審査担当者から指摘を受けたり、実際の申告後にキャッシュフロー計画とのズレが生じたりすることがあります。事業計画に税還付効果を織り込む場合は、土地・建物の按分後の通算可能額をベースに保守的な数値で試算しておくことで、融資審査の場でも説明に一貫性を持たせることができ、購入後の資金繰りの見通しも狂いにくくなります。
まとめ
不動産所得の赤字を給与所得などと損益通算する際、土地等の取得に対応する借入金利子の部分は対象外となる点は、収益物件投資における税務の基本ルールでありながら見落とされやすいポイントです。フルローンでの新築物件購入を検討する際は、土地・建物の価格按分と、それに基づく損益通算可能額を事前にシミュレーションし、想定していた節税効果と実際の申告結果にギャップが生じないようにしておくことが、資金計画全体の精度を高めることにつながります。
