収益物件のオーナーが税務を語るとき、所得税の「5棟10室基準」はよく話題に上りますが、実は不動産賃貸経営には所得税とは別の考え方で課税される「個人事業税」という地方税が存在します。所得税の事業的規模の判定基準と混同しやすく、自分が事業税の対象になるのかどうかを正しく理解していないオーナーも少なくありません。ここでは、不動産貸付業と個人事業税の関係、そして所得税の基準との違いを整理します。
個人事業税とはどのような税金か
個人事業税は、個人が営む一定の事業に対して都道府県が課す地方税で、事業の種類によって課税・非課税が分かれ、課税対象となる事業には業種ごとに定められた税率が適用されます。不動産の貸付けを行う事業(不動産貸付業)や駐車場業は、この個人事業税の課税対象となる業種の一つに位置づけられており、一定規模以上で不動産を貸し付けている個人オーナーは、所得税の確定申告とは別に、都道府県からの事業税の課税を受ける可能性があります。ただし、全てのオーナーが対象になるわけではなく、後述する事業的規模の認定と事業主控除の仕組みによって、小規模な賃貸経営では実質的に税負担が生じないケースも多くあります。
所得税の5棟10室基準との違い
所得税では、独立家屋であればおおむね5棟以上、アパートなどの貸間であればおおむね10室以上を保有している場合に「事業的規模」と判定され、青色申告特別控除の上乗せや専従者給与の必要経費算入など、税務上有利な扱いを受けられるようになります。一方、個人事業税における不動産貸付業の事業的規模の判定は、この所得税の基準とは別に、各都道府県の税事務所が定める認定基準に基づいて行われます。
| 区分 | 事業的規模の判定の目安 |
|---|---|
| 所得税 | 独立家屋はおおむね5棟以上、アパートなどの貸間はおおむね10室以上 |
| 個人事業税(不動産貸付業) | 貸家はおおむね10棟以上、独立家屋以外の貸間などはおおむね10室以上、土地の貸付けは契約件数や面積が一定以上 |
一般的にはこうした水準が目安とされていますが、具体的な基準や運用は都道府県ごとに定められているため、所得税で事業的規模と判定されたからといって、そのまま個人事業税でも同じ基準が適用されるとは限らない点に注意が必要です。
事業主控除と実際の税負担
個人事業税には、事業を行う個人ごとに年間290万円の事業主控除(地方税法第72条の49の14)が設けられており、不動産所得(事業税独自の計算方法により算出された所得金額)が事業主控除の範囲内であれば、事業税は課税されません。多くの個人オーナーは、賃貸経営の規模がまだ小さい段階では、事業税相当の所得がこの控除額を下回るため、実際に事業税の納税通知が届かないことも珍しくありません。しかし、物件を買い増して家賃収入が増加し、事業的規模の認定を受けるようになると、事業主控除を超えた所得部分に対して税率(不動産貸付業・駐車場業は第一種事業として比較的高めの税率区分に分類されます)が適用され、思わぬ税負担として認識されることがあります。規模拡大を計画しているオーナーは、所得税だけでなく個人事業税も含めた総合的な税負担の見通しを立てておくことが望ましいでしょう。
申告手続きと必要経費への算入
個人事業税は、所得税の確定申告書を提出していれば、原則として別途事業税の申告書を都道府県に提出する必要はなく、確定申告の内容をもとに都道府県側で税額が計算され、納税通知書が送付される仕組みになっています。なお、実際に納付した個人事業税は、翌年分の不動産所得の計算上、必要経費に算入することができるため、事業税を支払った年ではなく、その支払いが発生した年分の必要経費として計上するタイミングを間違えないようにする必要があります。また、賃貸経営の規模が大きくなり法人化を検討する段階になると、個人事業税に代わって法人事業税や法人住民税など、法人としての地方税体系に切り替わるため、法人化のタイミングを検討する際には、個人事業税の負担がどの程度変化するかも判断材料の一つになります。
法人化の判断材料としての事業税
賃貸経営を拡大していく過程では、個人のまま物件を増やし続けるか、資産管理法人を設立して法人で保有するかを検討する場面が出てきます。個人のまま事業的規模を超えて所得が増えていくと、所得税・住民税に加えて個人事業税の負担も重なってくるため、法人化のタイミングを見極める材料として、次のような点を比較検討することになります。
- 法人化した場合の合計負担(法人事業税・法人住民税・法人税の合計)
- 個人のまま保有し続けた場合の合計負担(所得税・住民税・個人事業税の合計)
- 税率以外に絡んでくる要素(事業主控除の有無、専従者給与・役員報酬の設計、社会保険料の負担)
単純な税率の比較だけでなく、こうした要素も関わってくるため、個人事業税単独ではなく、税制全体を俯瞰したシミュレーションを税理士と一緒に行うことが望ましいでしょう。
まとめ
個人事業税は、所得税の5棟10室基準とは別の基準で判定される地方税であり、賃貸経営の規模が一定以上になると納税義務が生じる可能性があります。事業主控除290万円の範囲内であれば実質的な負担が生じないため見落とされがちですが、物件を買い増して規模を拡大していく過程では、所得税だけでなく個人事業税の負担増も視野に入れた資金計画が必要です。都道府県ごとに認定基準の運用が異なる部分もあるため、事業的規模での賃貸経営を目指すオーナーは、早めに税理士や都道府県税事務所に相談し、正確な見通しを持っておくことをおすすめします。
