親族間売買とは
親族間売買とは、親子・兄弟・夫婦など親族関係にある当事者間で不動産を売買することです。相続や贈与とは異なり、対価(代金)の授受を伴う売買という形をとります。相続税・贈与税の負担を軽減したい、あるいは相続の前に特定の家族に財産を移転したいといった動機から選択されることが多いです。
しかし、親族間売買には通常の第三者間売買にはない独特のリスクが存在します。特に税務上の「みなし贈与」の問題は、知らずに進めると多額の追徴課税を受ける可能性があるため、十分な理解と事前準備が不可欠です。不動産の相続・贈与全般については相続対策としての不動産活用も参考にしてください。
みなし贈与とは何か
みなし贈与とは、実際の売買の形式をとっていても、取引価格が時価(市場価格)より著しく低い場合に、差額部分が贈与とみなされて贈与税が課される制度です(相続税法第7条)。
例えば、市場価格5,000万円の不動産を親から子へ1,000万円で売買した場合、差額の4,000万円が「みなし贈与」として子に贈与税が課税される可能性があります。贈与税は所得税や相続税と比較して税率が高く、最高税率は55%に達するため、思わぬ高額納税につながることがあります。
適正価格の設定が重要
親族間売買でみなし贈与を回避するには、「時価」に近い適正価格で売買することが基本です。ただし、「時価」の判定基準が問題となります。
国税庁の判断基準
税務当局は、親族間売買の適正価格として以下の基準を参考にします。
一般的に、時価の80%以上の価格であればみなし贈与と認定されにくいとされますが、これは絶対的な基準ではなく、個々の事案によって税務署の判断は異なります。安全を期すならば、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼し、その評価額に基づいた売買を行うことが最善です。
なお、2026年現在、国税庁は路線価等に基づく財産評価の見直し議論を続けており、今後の動向にも注意が必要です。
融資(住宅ローン)の壁
親族間売買では、金融機関の住宅ローンが利用しにくいという実務上の障壁があります。多くの銀行・信用金庫は、親族間売買を「不正融資・みなし贈与の隠蔽」として警戒し、融資審査を厳格化しています。
このため、買主が自己資金を持っていない場合、ノンバンクや親族間の金銭消費貸借契約(親子ローン)を活用するケースがあります。親子ローンは通常のローンより利率が低い場合、その差額もみなし贈与とみなされるリスクがあるため、適正な利率(市場金利水準)を設定することが必要です。不動産投資ローンの基礎については不動産投資ローンの基礎知識で確認できます。
税務上の適法性を確保するポイント
1. 不動産鑑定評価の取得
費用はかかりますが(一般的な住宅で30〜50万円程度)、鑑定評価書があれば時価の根拠として税務署に説明できます。高額物件や紛争リスクの高いケースでは必須です。
2. 売買契約書の作成
口頭ではなく、正式な売買契約書を作成し、公証人役場で確定日付を取得することで、取引の実在性と内容を証明できます。
3. 代金の振込による授受
代金は必ず銀行振込で行い、金銭の授受があったことを記録に残します。現金授受は証明が難しく、実際に取引が行われたことを示せない場合、全額贈与とみなされるリスクがあります。
4. 所有権移転登記の実施
売買後は速やかに所有権移転登記を行います。登記をしないと、所有権移転の事実が第三者に対抗できないだけでなく、税務上の実態を疑われる要因にもなります。2024年4月から相続登記が義務化されたことで、権利関係の明確化はより一層重要になっています。
5. 不動産取得税・登録免許税の納付
売買による取得には、不動産取得税(取得価格の3〜4%)と**登録免許税**(固定資産税評価額の2%)が課されます。これらの税を正しく申告・納付することも、正当な売買であることを示す要素の一つです。税負担の詳細は不動産取得税の基礎知識でも解説しています。
相続対策としての親族間売買の活用
親族間売買が有効な場面として、相続対策が挙げられます。例えば、収益物件を後継者に移転する際、贈与税の基礎控除(年110万円)では少額すぎる場合や、相続時精算課税制度(2,500万円まで非課税)では将来の相続税との兼ね合いで不利になる場合に、売買の形式を取ることで機動的な資産移転が可能になります。
相続対策全般を見据えた収益物件の活用は収益物件の相続対策と納税猶予制度も参照してください。
ただし、この目的での活用には税理士・弁護士など専門家の関与が不可欠です。
まとめ
親族間売買は、正しく行えば合法的な資産移転手段として有効です。しかし、みなし贈与リスクや融資の制約など、通常の売買にはない複雑な問題が伴います。適正価格の設定(可能なら鑑定評価)、正式な売買契約書の作成、銀行振込による代金授受、所有権移転登記の実施、そして専門家(税理士・司法書士)との連携が、リスクを最小化するための基本セットです。税務・相続に関するコラムはコラム一覧でも幅広く掲載しています。
