「利回り」ではなく「キャッシュフロー」が投資の本質
不動産投資を始める際、多くの方が「表面利回り」を重視します。しかし実際の投資では、**毎月・毎年どれだけ現金が手元に残るか(キャッシュフロー)**こそが投資の成否を決めます。
表面利回りが10%でも、実際の手残りが月1〜2万円しかないケースは珍しくありません。その原因を理解し、正確なキャッシュフローを計算できるようになることが、不動産投資の第一歩です。
キャッシュフロー計算の全体像
不動産投資のキャッシュフローは以下の流れで計算します。
年間家賃収入(満室想定)
- 空室・滞納損失([空室率](/glossary#vacancy-rate)分)
= 実効総収入(EGI)
実効総収入
- 管理費・修繕費・[固定資産税](/glossary#property-tax)・保険料等(運営経費)
= 純営業収益(NOI)
純営業収益
- 年間[ローン返済](/column/loan-default-recovery-guide)額(元金+利息)
= 税引前キャッシュフロー(BTCF)
税引前キャッシュフロー
- 所得税・住民税(課税所得に対する税金)
= 税引後キャッシュフロー(ATCF)※手残り
ステップ1:年間家賃収入の計算
満室想定収入
月額賃料 × 戸数 × 12か月で満室時の年間収入を計算します。
(例)8万円 × 6戸 × 12か月 = 576万円
空室損失・滞納損失の控除
満室が続くことは稀です。一般的に空室率5〜15%を見込んで実効総収入(EGI)を計算します。
- 空室率10%の場合:576万円 × 0.9 = 518万円
- 滞納損失(目安1〜2%)も加算して控除
注意点:物件チラシやポータルサイトの利回り表記は「満室想定」が多いため、実際は空室を考慮した数値で計算することが必須です。
ステップ2:運営経費の計算
NOIを計算するには、年間の運営経費を差し引きます。
主な運営経費
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 管理委託費 | 月額賃料の5〜10%程度 |
| 修繕費(修繕積立) | 年間家賃収入の5〜15%程度 |
| 固定資産税・都市計画税 | 物件・エリアにより異なる |
| 火災保険料 | 年間数万円〜(建物規模による) |
| 広告費(入居者募集) | 賃料1〜2か月分程度/件 |
| 管理組合費(区分マンション) | 月額数千〜数万円 |
| 税理士費用 | 年間数万円〜 |
運営経費率は一棟アパートで年間家賃収入の30〜40%が目安とされます。
(例)EGI518万円 × 35% ≒ 181万円(経費) NOI = 518万円 - 181万円 = 337万円
ステップ3:ローン返済額の計算
ローンが組まれている場合、年間返済額(元金+利息)をNOIから差し引きます。
元利均等返済の場合
(例)借入5,000万円・金利2%・返済期間25年の場合 月次返済額は約21.2万円 → 年間約254万円
BTCF(税引前キャッシュフロー)= 337万円 - 254万円 = 83万円
デットカバレッジレシオ(DCR)の確認
DCR = NOI ÷ 年間ローン返済額
DCRが1.0を下回ると、NOIだけではローン返済を賄えない(キャッシュアウト)状態を意味します。
上記の例:337万円 ÷ 254万円 ≒ 1.33(安全圏)
一般的にDCR 1.2以上が健全な水準とされます。
ステップ4:税引後キャッシュフローの計算
不動産所得の計算
不動産所得(課税所得)は、税務上の計算方法がキャッシュフローと異なります。
税務上の不動産所得 = 家賃収入 - 経費(減価償却費を含む)
ローン元金返済は経費になりませんが、建物の減価償却費は経費として計上できます。
税率の目安
給与所得と合算した場合の総所得が高い場合(課税所得900万円超)は税率が高く、不動産所得への課税負担が大きくなります。
所得税・住民税の最高税率は最大55%(所得税45%+住民税10%)。
収支シートのテンプレート例
| 項目 | 年間(万円) |
|---|---|
| 満室家賃収入 | 576 |
| 空室損失(10%) | -58 |
| 実効総収入(EGI) | 518 |
| 運営経費(35%) | -181 |
| 純営業収益(NOI) | 337 |
| 年間ローン返済 | -254 |
| 税引前CF(BTCF) | 83 |
| 所得税・住民税(概算) | -15 |
| 税引後CF(ATCF) | 68 |
キャッシュフロー改善のポイント
- 空室率を下げる:リフォーム・設備更新・賃料適正化で稼働率を高める
- 運営経費を最適化:管理会社のコスト見直し・修繕の計画的実施
- ローン条件の改善:金利交渉・借り換えによる返済負担の軽減
- 出口タイミングの設計:税率が低くなる5年超保有後の売却を計画する
まとめ
不動産投資の手残りを正確に把握するには、「満室家賃収入」から始まり「空室損失→経費→ローン返済→税金」を順に差し引いた「税引後キャッシュフロー」を計算することが重要です。
投資判断では表面利回りだけでなく、NOI・BTCF・ATCF・DCRを組み合わせて総合的に評価する習慣をつけましょう。収支シートを作成し、購入前・購入後に定期的に見直すことが安定した賃貸経営につながります。
