造作売買とは何か:店舗賃貸特有のルール
住宅の賃貸では退去時に原状回復が基本だが、飲食店やサロンなどの店舗賃貸では「造作売買」という特有の慣行がある。造作とは、テナント(賃借人)が独自に設置した内装・設備・什器の総称だ。厨房機器、内装工事、照明、カウンター、空調、換気設備など、入居時に賃借人がコストをかけて設置したものが該当する。
造作売買とは、退去するテナントが次の入居者に「これらの造作一式を売却する」取引だ。売り手は退去テナント、買い手は次の入居テナントまたはオーナーとなる。造作の状態が良好であれば、次のテナントは内装コストを大幅に抑えて開業できる。一方で退去テナントは投じた内装コストの一部を回収できる仕組みだ。
造作売買に必要なオーナーの承諾
賃貸借法(借地借家法28条)の解釈上、テナント間の造作売買にはオーナーの同意が必要とされている。これは、オーナーの知らないところで造作が引き渡され、意図しない設備・内装が残存することを防ぐためだ。
借地借家法33条では「造作買取請求権」が定められており、テナントがオーナーの同意を得て設置した造作については、退去時にオーナーに対して時価で買い取るよう請求できる権利がある。ただし、この権利は契約で排除することが可能だ。多くの商業用賃貸借契約では「造作買取請求権を放棄する」旨の特約が入っており、この場合はオーナーへの売却を強制できない。
実務上の流れ:退去テナントが造作売買を希望する場合、まずオーナーへ「造作を次テナントに売却したい」旨を申し出る。オーナーが承諾すれば、退去テナントと次の入居テナントの間で造作売買契約が締結される。売買代金の交渉はテナント同士が行うが、オーナーが仲介役を担うことも多い。
造作の価値評価:適正な売買価格の算定方法
造作売買代金の相場は「再取得価格の30〜50%」程度とされるが、実態はケースバイケースだ。価格に影響する主要因は以下の通りだ。
設備の残存耐用年数:設置から3年の厨房設備と8年の設備では価値が異なる。税法上の法定耐用年数(内装工事:15〜18年、厨房機器:8〜15年程度)を参考に減価率を算出する方法がある。
業種・用途の汎用性:特定の業種にしか使えない特注設備(例:ラーメン店の寸胴台・排気設備)は汎用性が低く査定額も下がる。一方、カフェ向け汎用カウンターや空調設備は次テナントへの転用性が高く、評価額も上がりやすい。
設備の状態・メンテナンス記録:修繕履歴があり状態が良好なものは評価が高い。写真記録や点検記録を整備しておくと売買交渉がスムーズになる。
オーナーが注意すべきポイント:権利と責任の境界
オーナーは造作売買に承諾する際、いくつかの点を慎重に確認する必要がある。
造作の現状と残置リスク:次テナントが造作を引き受ける場合は問題ないが、造作売買が不成立になった場合に退去テナントが造作を放置して出て行くケースがある。造作の撤去義務(原状回復)が契約上どちらにあるかを確認する。「造作売買不成立の場合は退去テナントが自費で原状回復する」という特約を入れておくことが重要だ。
次テナントへの設備の瑕疵リスク:造作売買が成立しても、後日「設備が壊れていた」「図面と異なる」などのトラブルが生じた場合、オーナーが巻き込まれることがある。承諾にあたっては「造作の瑕疵についてはテナント間で解決する」旨を承諾書に明記し、オーナーの責任を限定しておく。
適切な賃貸借契約への継承:造作を引き継いだ次テナントとの賃貸借契約でも、同様に「造作買取請求権の排除」と「退去時の原状回復義務の範囲」を明確にしておく。そうしないと将来の退去時に同様の問題が繰り返される。
造作売買不成立の場合:オーナーの選択肢
退去テナントが造作売買を希望したが次テナントが見つからない場合、または次テナントが造作を不要とする場合、以下の選択肢がある。①退去テナントに原状回復(造作の撤去)を求める。②オーナーが造作を時価で買い取り、自前で次テナントに付加価値として提供する(居抜き物件として募集する)。③造作の一部のみを残し、残りはテナントが撤去する。
居抜き募集は次テナントにとって開業コストを下げられる魅力があり、空室期間の短縮につながることも多い。オーナーとして造作買取りを検討する場合は、設備の残耐用年数と次テナントの業種適合性を慎重に評価して判断する。
まとめ:造作売買は承諾前の整理が全て
店舗テナントの造作売買は、適切に管理すれば空室対策と入居者の入れ替えコスト削減に寄与するが、事前に権利関係と責任の境界を明確にしておかないとトラブルに発展しやすい。賃貸借契約書の原状回復条項と造作売買承諾の手続きを整備し、弁護士や司法書士の確認を経たうえで対応することで、オーナーのリスクを最小化できる。
