防火管理者とは何か
防火管理者とは、建物の火災予防や、火災が発生した際の初期対応・避難誘導などを計画的に行うために選任される責任者のことです。消防法では、一定規模以上の建物の管理権原者(所有者や管理会社など、建物を事実上管理する立場の人)に対して、防火管理者を選任し、防火管理に関する消防計画を作成することを義務づけています。
収益物件のオーナーにとって、この制度は区分マンションを1戸だけ持っているようなケースでは意識する機会が少ないかもしれません。しかし、1棟アパートやマンションを保有し、入居者数や延べ面積が一定の基準を超える場合には、オーナー自身または管理を委託している会社が防火管理者としての体制を整えているかどうかを確認しておく必要があります。
防火管理者の選任が必要になる建物の目安
防火管理者の選任義務は、建物の用途と収容人員(建物を利用する人の合計数のおおよその目安)によって判断されます。共同住宅(アパート・マンション)の場合、一般的には収容人員がおおむね50人以上になると、防火管理者の選任が必要とされる区分に該当してきます。延べ面積によっても「甲種防火管理者」と「乙種防火管理者」のどちらの資格が必要かが分かれる仕組みになっています。
ただし、収容人員の数え方や建物用途の判定には細かい基準があり、テナントが混在する複合用途の建物では判定がさらに複雑になります。正確な要否判定は、物件所在地を管轄する消防署に確認するのが最も確実です。以下は確認しておきたいポイントの例です。
- 保有物件の延べ面積と、居室数から想定される収容人員のおおよその見込み
- 建物内に店舗・事務所など住居以外の用途が混在していないか
- 管理を委託している管理会社が、防火管理者選任の要否を把握しているか
- 過去に消防署からの立入検査や指導を受けた記録が残っていないか
防火管理者の選任手続きと消防計画
選任が必要と判定された場合、オーナーや管理権原者は防火管理者を選任し、その旨を所轄の消防署に届け出る必要があります。防火管理者には、防火管理に関する講習を修了した人を充てるのが一般的な流れです。管理会社に管理を委託している場合は、管理会社の担当者が防火管理者を兼務するケースも見られますが、最終的な選任義務を負うのは建物の管理権原者であるオーナー自身である点は押さえておく必要があります。
防火管理者に選任された人は、消防計画を作成し、消火・通報・避難の訓練の実施、消防用設備等の点検の実施状況の確認、火気の使用や取り扱いに関する監督などを行う立場になります。区分所有のマンションでは、管理組合が防火管理者を選任し、区分所有者はその活動に協力するという位置づけになるのが一般的です。
選任を怠った場合に想定されるリスク
防火管理者の選任や消防計画の届出を怠った場合、所轄の消防署から是正を求める指導が入ることがあります。指導に応じない状態が続くと、法令上は罰則の対象となり得る規定も設けられています。加えて、実務上より大きな影響が出やすいのは、以下のような点です。
- 火災保険の契約や更新において、消防法令の遵守状況を確認されることがある
- 万一火災が発生した際に、管理体制の不備が入居者や近隣への責任問題に発展しうる
- 物件の売却時に、買主側のデューデリジェンスで消防法令の遵守状況を指摘される可能性がある
特に3の売却局面では、法令遵守の状況が価格交渉の材料にされることもあるため、保有中から体制を整えておくことは資産防衛の観点でも意味があります。
管理会社との役割分担を明確にしておく
管理を管理会社に委託している場合でも、防火管理者選任の最終的な義務はオーナー側に残ります。委託契約の内容によっては、消防用設備の点検手配や訓練の実施を管理会社が代行してくれる場合もありますが、委託しているから安心と思い込まず、どこまでが管理会社の業務範囲に含まれているかを契約書や重要事項説明で確認しておくことをおすすめします。
複数棟を保有するオーナーの場合、物件ごとに選任状況や訓練実施状況を一覧化しておくと、管理会社の変更や物件の追加取得の際にも抜け漏れを防ぎやすくなります。建物の法定点検については賃貸物件の設備法定点検と計画修繕スケジュールでも整理していますので、あわせて確認しておくと管理体制の全体像を把握しやすくなります。
消防用設備の点検義務との違い
防火管理者の選任義務としばしば混同されるのが、消防用設備等の点検報告義務です。両者はいずれも消防法に基づく制度ですが、防火管理者の選任は建物の防火管理体制を統括する人を置くことを求める制度であるのに対し、消防用設備等の点検は消火器や自動火災報知設備などの設備そのものが正常に機能するかを定期的に確認し、報告することを求める制度です。防火管理者が選任されている建物であっても、消防用設備の点検自体は別途、資格を持つ点検業者に依頼して実施する必要があります。似た名称の建築基準法上の定期報告制度(建築基準法12条 定期報告制度)ともあわせて、根拠法令が異なる複数の点検・報告義務が並存している点を理解しておくと、管理会社との役割分担を整理しやすくなります。
まとめ
防火管理者の選任義務は、区分所有の1室だけを保有するオーナーには縁遠く感じられがちですが、1棟物件や大規模な建物を保有する場合には避けて通れないテーマです。選任要否の判定は建物ごとに異なるため、まずは物件所在地の消防署や管理会社に現状を確認し、必要であれば早めに選任手続きを進めておくことが、入居者の安全確保と資産防衛の両面で重要になります。
