テレワークが賃貸市場にもたらした変化
2020年以降のコロナ禍で急速に普及したテレワーク(リモートワーク)は、働く場所を選ばない働き方を大企業・中小企業問わず広め、住む場所の選択基準を根本から変えました。
「職場への通勤距離より、居住空間の広さ・自然環境・家賃の安さを重視する」という価値観の変化が、都心集中型だった賃貸需要の分散を引き起こしました。
コロナ禍での需要シフト(2020〜2022年)
都心(特に1K・1R の小型住戸)の苦戦: テレワーク普及初期、特に影響を受けたのは都心の小型物件(1K・1R、20〜25㎡)でした。狭い部屋ではテレワーク用のスペースが確保できず、在宅時間が増えた入居者が広い部屋・郊外へ移転する動きが起きました。
東京23区内の一部エリアでは空室率が上昇し、家賃が5〜10%程度下落した例もありました。
郊外・地方中枢都市への需要流入: 神奈川県(湘南・厚木・相模原)・埼玉県(大宮周辺・浦和)・千葉県(柏・松戸)などの郊外エリアで、広い間取り(2LDK・3LDK)への需要が高まりました。自然環境・子育て環境を重視した移住需要も増え、長野県・静岡県・福岡県などでも移住者増加が見られました。
2023年以降の「揺り戻し」
テレワーク全盛期を経た2023〜2024年にかけて、多くの大企業が出社回帰方針を打ち出しました。
出社回帰の影響: 週3〜5日出社を求める企業が増え、郊外・地方に移住した会社員が「通勤時間が長すぎる」として都心・都市近郊に戻る動きが発生しました。都心の1K・1R物件の需要が戻り、一部エリアでは家賃が回復しました。
テレワークの定着部分: 一方で、週1〜2日テレワークが「選択肢として残った」企業・職種では、以前よりも少し広い間取り(1LDK・2LDK)への需要が続きました。完全出社への回帰より「ハイブリッド勤務」が定着した企業では、在宅スペースの確保ニーズが残存しています。
賃貸オーナーへの影響と対応策
都心の小型物件(1K・1R)オーナー
都心の小型物件は出社回帰需要によって稼働率が回復傾向にありますが、引き続き「テレワーク対応」を訴求する設備投資が差別化になります。
有効な対応:
- 高速インターネット(1Gbps以上)の無料提供
- デスク置き場・作業スペースが確保できる間取りのアピール
- テレワーク対応ブースの共用スペース設置(マンション全体)
郊外・地方の広め物件(2LDK以上)オーナー
出社回帰によって流入した入居者の一部が都心へ戻る動きはありましたが、郊外・地方の2LDK以上の物件は子育て世帯・共働き世帯・在宅フリーランスからの一定の需要が継続しています。
有効な対応:
- 駅からのアクセスとバスの本数・運行時間の積極情報開示
- ターゲットをハイブリッド勤務対応の30〜40代ファミリーに絞り込んだ訴求
- 書斎・ワークスペース対応の内装リフォーム(2LDKの1室をワークルームとして提案)
地方都市(政令市・県庁所在地以外)
テレワーク移住の受け皿になることを期待した地方都市の中には、移住者需要が想定ほど定着しなかったエリアもあります。
流入した移住者が出社回帰で都市部に戻ると、空室が発生するリスクがあります。地方での賃貸経営では、地元の固定需要(地元企業勤務・学生・高齢者)を基盤として考える安全マージンが重要です。
2026年以降の見通し
テレワーク・ハイブリッド勤務が完全に消えることはないと見られますが、フルリモートを前提にした「職場に依存しない居住」という需要は、コロナ禍ピーク時より縮小した状態で安定化する可能性が高いです。
賃貸市場全体の構造的トレンドとして以下が続きます:
テレワーク需要は賃貸市場の一要素になりましたが、それだけに依存するのではなく、「立地・価格・設備」の三本柱が揃う物件の安定性を基本として投資判断することが重要です。
まとめ
テレワーク普及は賃貸市場に「広い間取りへの需要・郊外・地方への流出」という変化をもたらしましたが、2023年以降の出社回帰によって都心物件の需要は回復傾向にあります。
重要なのは「テレワークがあるから郊外が有利」「出社回帰だから都心だけ買えばいい」という単純な二項対立ではなく、エリアの固定需要・物件スペック・入居者ターゲットを精緻に組み合わせた投資判断です。テレワーク対応設備(高速インターネット・作業スペース)は引き続き入居者に評価される付加価値として、物件改善の方向性の一つになります。
