「二地域居住」とは何か、なぜいま注目されるのか
「二地域居住」とは、都市部に生活の拠点を置きながら、地方にもう一つの住まいを持ち、行き来しながら暮らすライフスタイルを指す。リモートワークの普及や働き方の多様化を背景に、平日は都市部で働き、週末や長期休暇は地方の家で過ごすといった暮らし方への関心が高まってきた。総人口が減少局面にある一方で、こうした「関係人口」「二拠点居住人口」を地方に呼び込もうとする動きは、地方自治体にとって地域活性化の重要な柱の一つとなっている。
不動産投資家の視点から見ると、二地域居住は単なる住まい方のトレンドにとどまらず、地方の空き家や築古物件に新たな「借り手・買い手層」を生み出す可能性を持つ点で注目に値する。人口減少地域では入居付けに苦労する物件も少なくないが、二地域居住者という新しい需要層が加わることで、これまで動きにくかった物件の出口が広がる余地がある。
2024年の広域的地域活性化法改正と二地域居住促進の枠組み
2024年には「広域的地域活性化法(広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律)」が改正され、二地域居住の促進に関する枠組みが法制度として整えられた。この改正により、市区町村が二地域居住者への居住支援等を行う法人を「特定居住等支援法人」として指定できる仕組みや、行政・民間事業者・地域団体などが連携する「特定居住促進協議会」を組織できる仕組みが導入されている。
これは、二地域居住を希望する個人と、空き家・住まいを提供したい地域とをつなぐ「マッチング」や「相談支援」の担い手を、自治体が公的に位置づけられるようにする制度と理解できる。国土交通省は2026年に入っても施行状況や取り組み事例の発信を続けており、全国の自治体で空き家を二地域居住者向けの住まいとして活用する検討や実践が進んでいる段階にある。ただし、具体的な補助制度の内容や金額、対象地域は自治体ごとに個別に定められるものであり、投資家は「制度の枠組みができた」という事実を踏まえつつ、個別の詳細は必ず各自治体の公表情報で確認する姿勢が欠かせない。
空き家の賃貸住宅への再生という新たな投資機会
この制度整備を追い風に、空き家をリノベーションして二地域居住者向けの賃貸住宅として再生する取り組みが各地で見られるようになってきた。管理が行き届かず放置されがちだった空き家に、行政の後押しや地域の仲介機能が加わることで、賃貸住宅としての再生ルートが見えやすくなる点は、投資家にとって前向きな環境変化といえる。
収益物件投資の観点では、空き家は取得コストが比較的抑えられる一方、リフォーム・修繕コストの見極めが難しく、賃貸需要の裏付けも薄いという課題がある物件類型だった。二地域居住向け賃貸という新しい出口が育てば、こうした空き家の「使い道」の選択肢が一つ増えることになる。ただし、これは「空き家を買えば二地域居住者がすぐ入居する」という単純な話ではなく、地域の受け皿づくりが進む中で徐々に形成されていく需要である点は冷静に見ておきたい。
二地域居住需要と民泊・ワーケーション需要との違い
二地域居住向けの賃貸は、宿泊業としての民泊や、短期滞在中心のワーケーション需要とは性格が異なる。民泊は宿泊者の短期回転が前提となり、旅館業法や住宅宿泊事業法などの許認可・届出の枠組みの中で運営される事業である。これに対して二地域居住は、同一の入居者が中長期にわたって反復的に利用する、賃貸借契約に基づく居住としての性格が強いと考えられる。
そのため、想定される契約形態も、短期の宿泊契約ではなく、定期借家契約や季節利用を前提とした賃貸借契約が中心になりやすい。稼働率の考え方も宿泊業のような日単位の稼働率ではなく、年間を通じた契約継続率や更新率で捉える方が実態に近い。ワーケーション向けの短期貸しと二地域居住向けの中長期貸しでは、想定される賃料水準・管理の手間・法的な位置づけがそれぞれ異なるため、物件をどちらの需要に合わせて企画するかによって投資戦略も変わってくる。
投資家が確認すべきポイント
二地域居住向けの賃貸経営を検討する際には、いくつかの観点を押さえておきたい。第一に、対象地域の自治体が二地域居住の促進にどの程度取り組んでいるか、相談窓口や支援法人の有無を確認すること。第二に、地域における交通アクセスや生活インフラ(買い物・医療・通信環境など)が、都市部からの反復的な行き来に耐えうる水準かどうかを見極めること。第三に、想定する入居者層(子育て世帯、リタイア層、リモートワーカーなど)によって求められる住宅の広さや設備水準が異なるため、リノベーション計画をその層に合わせて設計すること。第四に、契約形態(普通借家・定期借家・季節利用等)を明確にし、想定利回りを保守的に見積もることである。
リスクと不確実性を踏まえた向き合い方
二地域居住は制度面の整備が始まったばかりの分野であり、需要の実態や定着度合いはこれから見えてくる段階にある。自治体ごとの取り組み熱量には差があり、支援策の有無や内容も地域によって大きく異なる。投資家としては、こうした制度・需要を「確立された市場」としてではなく、「育ちつつある市場」として捉え、過大な期待に基づいた高値づかみを避けることが重要である。
空き家の取得・再生を検討する際は、二地域居住需要のみに依存した収支計画を組むのではなく、通常の賃貸需要でも一定の採算が見込めるかを基本線としつつ、二地域居住向けの需要を上乗せの可能性として位置づける保守的なアプローチが望ましい。制度や自治体の動きは今後も変化していくため、継続的に自治体・国土交通省の発信を確認しながら、長期的な視点で投資判断を行う姿勢が求められる。
