損益分岐入居率(BEO)とは何か
損益分岐入居率(Break-Even Occupancy、BEO)は、「入居率が何%まで下がるとキャッシュフローがゼロになるか」を示す指標です。この水準を下回ると、物件の収益だけではローン返済や運営費用を賄えなくなります。
一般的な指標(表面利回り・DSCRなど)が「現状の収益力」を測るのに対し、BEOは「どこまで悪化したら耐えられなくなるか」という下方耐性を測る指標です。
BEO(%)= 損益分岐点となる最低必要収入 ÷ 満室時収入 × 100
損益分岐点となる最低必要収入 = 年間固定費(ローン返済 + 運営費用)
BEOの計算方法:ステップごとに解説
実際の物件を例に計算してみます。
物件概要
- 一棟アパート(10戸、月5万円/戸)
- 購入価格:5,000万円
- 借入:4,000万円(金利2.0%・30年固定)
- 年間ローン返済額:約177万円
ステップ1:満室時年間収入を算出
満室収入 = 10戸 × 5万円 × 12ヶ月 = 600万円
ステップ2:年間固定費合計を算出
| 費目 | 年間金額 |
|---|---|
| ローン元利返済 | 177万円 |
| 管理委託費(満室収入の7%) | 42万円 |
| 建物管理費(月2.5万円) | 30万円 |
| 固定資産税 | 25万円 |
| 火災保険料 | 5万円 |
| 修繕費(経常) | 20万円 |
| 入退去費・広告費 | 15万円 |
| 合計 | 314万円 |
ステップ3:BEOを計算
BEO = 314万円 ÷ 600万円 × 100 = 52.3%
この物件は入居率が52.3%を下回ると、キャッシュフローがマイナスになります。
BEOの判定基準:何%が安全か
BEOの絶対的な安全基準はありませんが、以下が一般的な目安です。
| BEO水準 | 評価 | 解説 |
|---|---|---|
| 60%以下 | 非常に安全 | 半数以上空いてもプラス。空室耐性が極めて高い |
| 60〜70% | 安全 | 通常の市場環境では問題ない水準 |
| 70〜80% | 標準 | 多くの収益物件が該当。平均的な空室率なら安定 |
| 80〜85% | やや高め | 空室が少し増えるだけで危険域に入る |
| 85%超 | 危険 | 空室率10〜15%で即座にキャッシュフロー赤字 |
日本全国の賃貸住宅の平均空室率は地域によって異なりますが、地方都市では20〜30%の空室率も珍しくありません。BEOが85%の物件では、空室率15%でもキャッシュフローがマイナスになります。
BEOに影響する主な要因
1. LTV(借入比率)
LTVが高いほどローン返済額が増加し、BEOが上昇します。頭金を増やしてLTVを下げることはBEO改善の最も直接的な方法です。
LTV別BEOの比較(同物件・同条件で頭金のみ変更)
| LTV | 借入額 | 年間返済 | BEO(概算) |
|---|---|---|---|
| 60% | 3,000万円 | 133万円 | 約42% |
| 70% | 3,500万円 | 155万円 | 約45% |
| 80% | 4,000万円 | 177万円 | 約52% |
| 90% | 4,500万円 | 199万円 | 約59% |
2. 金利
変動金利の場合、金利上昇はローン返済額を増加させてBEOを悪化させます。固定金利でBEOを計算しておくことで、将来のリスクを事前に把握できます。
3. 運営費用比率
管理費・修繕費・広告費などの固定費が大きいほどBEOが上昇します。運営費用を抑えることはBEO改善の直接的な手段です。
BEOとDSCRの関係
BEOとDSCR(返済余裕率)は補完的な指標です。
- DSCR:「現在の入居率でローン返済を何倍賄えるか」(現状の余裕度)
- BEO:「入居率が何%まで下がると危険か」(将来の耐性)
同じDSCR1.3の物件でも、BEOは物件によって大きく異なります。BEOが低い物件は将来の空室リスクに強く、長期保有に向いています。
実践:物件選定でのBEO活用法
物件購入前にBEOを試算することで、以下の判断が可能になります。
1. 地域の空室率との比較 対象エリアの平均空室率(国土交通省の住宅・土地統計調査等で確認可能)とBEOを比較します。BEOが地域平均空室率を大幅に超えていない物件を選ぶことが安全策です。
2. ストレステスト 「空室率が20%になったら」「金利が2%上昇したら」など、悪化シナリオを想定してBEOを再計算します。
3. 複数物件の比較 利回りが同程度の複数物件を比較する際に、BEOを比較基準の一つにすると、空室耐性の違いが明確になります。
まとめ:BEOは「安全マージン」の定量指標
損益分岐入居率(BEO)は、不動産投資の「安全マージン」を数値で表す指標です。表面利回りや収益計算だけでなく、BEOを事前に把握することで、空室リスクに強い物件かどうかを客観的に判断できます。
目安としてBEO70%以下の物件を基準にすることで、通常の市場環境での変動を吸収できる収益物件選びが可能になります。購入前の必須チェック項目として、BEO計算を習慣化しましょう。
