近年、建築資材の価格や職人の人件費が上昇傾向にあり、これは新築だけでなく既存物件の修繕や原状回復にも波及しています。賃貸経営の収支計画を立てるとき、数年前の感覚で修繕費を見積もっていると、いざ工事の段階で見積もりが想定を大きく上回り、利益を削られることになりかねません。本記事では、修繕費・原状回復費の高騰リスクへの備え方を一般的な観点から整理します。
なぜ修繕費は上がっているのか
修繕や原状回復にかかる費用は、大きく「材料費」と「人件費(施工費)」に分けられます。近年は資材価格の上昇に加え、建設業界の人手不足を背景に職人の人件費も上がりやすく、両面からコストが押し上げられています。
この影響は工事の規模を問わず及びます。外壁塗装や屋根の修繕といった大規模工事はもちろん、退去ごとに発生するクロスの張り替えや床の補修といった小さな原状回復工事でも、単価がじわじわ上がっています。「以前はこのくらいで済んだ」という記憶のままだと、見積もりを見て驚くことになります。
どこに影響が出るか
退去のたびの原状回復
入居者が入れ替わるたびに発生する原状回復は、件数が多いぶん単価上昇の影響を受けやすい部分です。回転の速い物件ほど、原状回復費の積み上がりが効いてきます。
大規模修繕
外壁や屋上防水などの大規模修繕は金額が大きいため、単価の上昇が総額に直接響きます。長期修繕計画を立てた当時の見積もりと、実際に工事する時点の相場が乖離していることも珍しくありません。
突発的な設備交換・原状回復
設備故障や退去にともなう工事は、ゆっくり相見積もりを取る余裕がないことも多く、結果として割高になりやすい場面です。
高騰リスクへの備え方
1. 収支計画の単価に余裕を持たせる
物件購入時のシミュレーションでは、修繕費・原状回復費を保守的に、つまり多めに見込んでおくのが安全です。古い単価や楽観的な数字で計算した利回りは、実態より良く見えてしまいます。
2. 長期修繕計画を定期的に見直す
一度立てた長期修繕計画も、相場の変化に合わせて見直すことが大切です。計画当時の金額のまま積み立てていると、いざ工事のときに資金が足りなくなります。
3. 修繕積立を厚めに確保する
コストが上がる前提に立てば、毎月プールする修繕積立は厚めに取っておくほうが安心です。手元資金が薄いと、工事のたびに自己資金を持ち出すことになります。
4. 工事は計画的に発注する
緊急工事は割高になりやすいため、予防的な点検・修繕で突発工事を減らし、計画的に相見積もりを取れる状態を作ることが、トータルのコスト抑制につながります。
利回りへの影響を見落とさない
修繕費・原状回復費の高騰は、表面利回りには表れません。家賃収入が同じでも、出ていくコストが増えれば実質利回りは下がります。とくに築年数が進んだ物件は工事の頻度も金額も増えやすく、コスト高騰の影響を強く受けます。物件を評価するときは、現在の相場を反映した修繕費を差し引いた実質ベースで判断することが欠かせません。
簡単なシミュレーション:単価上昇の影響度
仮に年間家賃収入600万円の物件で、修繕費・原状回復費を年60万円と見込んでいたとします。単価が2〜3割上昇して年75万円前後になると、それだけで実質的な手残りは年15万円ほど目減りします。さらに大規模修繕の総額が当初計画より数十万円〜百万円単位で膨らめば、積立の前提そのものが崩れます。数字は仮置きですが、「修繕費が2割上がったら収支がどう変わるか」という感応度を購入前に一度計算しておくと、その物件のコスト高騰への耐性が見えてきます。
見積もり時の落とし穴
- 「一式」表記の見積もり:内訳が見えない見積もりは、相見積もりでの比較ができず、適正価格の判断がつきません。項目ごとの数量と単価を出してもらうのが基本です
- 追加工事の発生:解体や下地を開けてから劣化が見つかり、追加費用が発生することは珍しくありません。あらかじめ予備費を見込んでおくと資金計画が崩れにくくなります
- 最安値だけで業者を選ぶ:極端に安い見積もりは、施工品質や保証内容に差があることがあります。工事後の不具合対応まで含めて比較しないと、かえって高くつくことがあります
- 時期による繁閑差:退去が集中する時期は工事も混み合い、価格交渉がしにくくなります。急がない工事は時期をずらすのも一案です
まとめ
資材・人件費の上昇により、修繕費や原状回復費は上がる傾向にあります。古い単価で立てた収支計画は実態より甘く見えるため、購入時のシミュレーションは保守的に、修繕積立は厚めに、長期修繕計画は定期的に見直すのが基本です。突発工事を減らす予防保全も有効です。コスト高騰を前提に、実質利回りで物件を判断する姿勢が、賃貸経営の安定につながります。
