築古物件の「表面利回り」の落とし穴
不動産ポータルサイトで「利回り18%」と表示されている築30年のアパートは、初心者投資家にとって「お得な物件」に見えます。
しかし、この「表面利回り」には、大きな落とし穴があります。
表面利回りの計算式の問題
表面利回り = 年間賃料 ÷ 購入価格 × 100
この計算式には、運営費用が含まれていません。
例:築30年、1,500万円のアパート
- 月家賃:10万円 × 4室 = 40万円
- 年間賃料:480万円
- 表面利回り = 480万円 ÷ 1,500万円 = 32%
一見、素晴らしい物件に見えます。しかし、現実の費用は:
- 管理費:月4万円(年48万円)
- 修繕費:年60万円(築古のため)
- 固定資産税:年30万円
- 保険料:年3万円
- 実運営費計:年141万円
実利回りの計算
営業利益ベースの実利回りは:
営業利益 = 年間賃料 - 運営費用 = 480万円 - 141万円 = 339万円 実利回り = 339万円 ÷ 1,500万円 = 22.6%
表面利回り32%と実利回り22.6%で、10%近い乖離があります。
さらに、「隠れた修繕費」を加味すると、実利回りは15~18%に低下します。
築古物件の修繕費実態を把握する方法
1. 第三者建築診断を実施する
物件購入前に、建築士による詳細診断(インスペクション)を行うことが必須です。
費用:5~10万円(大規模物件)
診断項目:
- 屋根・外壁の劣化度
- 防水シート・コーキングの状態
- 基礎・躯体のひび割れ
- 配管・配線の老朽化度(更新時期の予測)
- 建物全体の耐用年数予測
診断結果の読み方
- 「5年以内に修繕が必要」:確度95%(ほぼ確実)
- 「5~10年以内に修繕が必要」:確度70%(計画立案が必須)
- 「10年以上大丈夫」:確度50%(予測の信頼度は低い)
2. 建物管理台帳・修繕履歴の確認
売主から「過去10年の修繕実績」を取得し、実際に何にいくら使われたかを確認します。
修繕履歴の読み方
| 年度 | 修繕項目 | 金額 |
|---|---|---|
| 2016年 | 屋根瓦葺替え | 150万円 |
| 2018年 | 外壁塗装 | 80万円 |
| 2020年 | 給湯器交換 | 15万円 |
| 2023年 | 雨樋修理 | 5万円 |
| 平均 | 50万円/年 |
過去の平均修繕費が年50万円なら、今後も同程度を見積もるべきです。
3. 設備の「法定耐用年数」を確認
各設備の最後の交換時期から、今後の交換時期を予測します。
主要設備の耐用年数
- 屋根・外壁:20~25年
- 防水シート:15~20年
- 給湯器:10~15年
- エアコン:10~13年
- 配管・配線:20~30年(古い建物は交換リスク高)
- 外装タイル:30年(浮き・落下のリスク)
例:築30年の物件
- 最終外壁塗装:5年前(築25年時)→ 次の塗装は築30年時点で「今すぐまたは数年内」
- 屋根:30年前=交換が必須(即座に150万円~200万円が必要)
修繕費の「正確な見積もり」を作成する
年間修繕費の目安計算
多くの物件で「年間修繕費 = 建物価格の1%」が使われます。これは保守的な目安ですが、築古物件は異なります。
築古物件の修繕費見積もり方法
-
過去5年の実績から平均を算出
- 年50万円が実績なら、その額を採用
-
今後必要な修繕を「時系列」で計画する
- 2026年:屋根葺替(150万円)
- 2027年:外壁塗装(80万円)
- 2028年:給湯器交換×4台(60万円)
- 3年合計:290万円 ÷ 3年 = 年96万円
-
「通常修繕」と「資本的支出」を区別する
修繕費分類:修繕費 vs 資本的支出
税務上、「修繕費」と「資本的支出」は異なる扱いになります。
修繕費(全額その年の経費)
- 現状回復:床のキズ補修、クロス張替え
- 小規模な設備交換:蛇口・ドアノブ交換
- 保守的な修理:雨樋の修理、フェンス補修
資本的支出(減価償却対象、複数年に分散)
修繕費分類の細かい判定は税理士に相談すべきですが、「大規模・長期資産価値向上」なら資本的支出の可能性が高いです。
実物件での利回り再計算事例
ケース1:築35年、1,200万円のアパート(表面利回り24%)
基本スペック
運営費見積もり
今後5年の大規模修繕計画
- 2026年:屋根葺替(120万円)
- 2027年:給湯器×4台交換(60万円)
- 2028年:外壁塗装(70万円)
- 5年合計:250万円 ÷ 5年 = 年50万円
実運営費計:102.4万円 + 50万円 = 152.4万円
- 営業利益:378万円 - 152.4万円 = 225.6万円
- 実利回り = 225.6万円 ÷ 1,200万円 = 18.8%
表面利回り24%から、実利回りは18.8%へ低下しました。それでも「18~20%は優良」と判定される利回りです。
ケース2:築40年、1,000万円のアパート(表面利回り28%)
基本スペック
- 構造:木造2階
- 賃料:月280万円(4室 × 7万円)
- 年間賃料:336万円
- 空室率:15%(年間実収:285.6万円)
運営費見積もり
| 項目 | 年額 | 備考 |
|---|---|---|
| 管理費 | 28万円 | 10% |
| 固定資産税 | 20万円 | |
| 火災保険 | 2万円 | 木造は高い |
| 小計 | 50万円 |
重要:今後の大規模修繕計画
- 2026年:屋根葺替(100万円) |
- 2027年:外壁改修(100万円) |
- 2028年:配管全交換(80万円) |
- 2029年:給湯器×4台(60万円) |
- 4年合計:340万円 ÷ 4年 = 年85万円 |
実運営費計:50万円 + 85万円 = 135万円
実利回り計算
- 営業利益:285.6万円 - 135万円 = 150.6万円
- 実利回り = 150.6万円 ÷ 1,000万円 = 15%
表面利回り28%から、実利回りは15%へ大幅低下。しかし、それでも「15%は堅実」な利回りです。
ただし、修繕計画を怠ると、実利回りはさらに低下します。
よくあるミスと対策
ミス1:「現在の修繕費」をそのまま採用する
築古物件の現在の修繕費が「年10万円」でも、それは「運がいい」だけかもしれません。
今後5年で大規模修繕が必要になる可能性が高いです。
対策
- 建築診断結果から、向こう5~10年の修繕計画を作成
- 保守的に「年100万円」程度を見積もる
ミス2:「屋根・外壁は数年後」と先送りする
屋根・外壁の修繕を後回しにすると、漏水→躯体腐食→修繕費増加の負の連鎖に入ります。
最初から「購入1~2年以内に屋根・外壁修繕必須」と見積もるべきです。
対策
- 築25年以上なら、「購入後すぐに屋根修繕予算100万円」を計上
- 修繕を先延ばしする利回り計算は、銀行が許可しません
ミス3:「修繕費を年5%削減できる」という根拠のない楽観論
「この物件は築古だが、丁寧に維持管理したので修繕費は少なくて済む」という主張は、多くの場合根拠がありません。
建物劣化は「時間経過」に比例するため、管理の質では阻止できません。
対策
- 修繕費見積もりは「建築診断」「過去実績」に基づく
- 根拠のない楽観論は、銀行審査で落ちます
利回り計算の実務チェックリスト
築古物件を検討する際、以下をチェックしてから購入判断すること。
- □ 第三者建築診断を実施したか
- □ 過去10年の修繕履歴を確認したか
- □ 向こう5~10年の修繕計画を作成したか
- □ 屋根・外壁・防水の状態を診断で確認したか
- □ 配管・配線の交換時期を把握したか
- □ 実運営費(修繕含む)ベースの利回りを再計算したか
- □ その利回りで融資が通るか確認したか
まとめ
築古物件の「表面利回り」は、隠れた修繕費により大幅に低下します。実利回り15~18%程度が現実的な目安です。建築診断・修繕計画を通じて、正確な修繕費を見積もり、銀行が納得する保守的な利回り計算をすることが、長期的な投資成功の鍵です。
