一棟投資で収支シミュレーションが不可欠な理由
一棟物件(アパート・マンション)は投資額が大きく、複数の住戸・経費・ローンが絡むため、購入前に正確な収支シミュレーションを行うことが不可欠です。表面的な利回り数字だけで判断すると、実際の手残り(キャッシュフロー)が想定を大きく下回るリスクがあります。
本稿では一棟投資の利回りの考え方と、収支シミュレーションの基本手順を数値例で解説します。
表面利回りと実質利回りの違い
表面利回り(グロス利回り)
表面利回り(%)= 年間満室家賃収入 ÷ 物件取得価格 × 100
物件概要書に記載される利回りは多くがこの表面利回りです。経費や空室を考慮しない概算値であり、物件同士をざっくり比較する目安にすぎません。
実質利回り(ネット利回り)
実質利回り(%)=(年間家賃収入 − 年間諸経費)÷ 物件総取得費用 × 100
諸経費には管理委託費・固定資産税・損害保険料・修繕費・空室損失を含めます。物件総取得費用には購入価格に加えて仲介手数料・登記費用・不動産取得税などの取得コストを含めます。
実質利回りは表面利回りより1〜3ポイント程度低くなることが一般的で、投資判断はこちらを基準にします。
収支シミュレーションの構成要素
一棟投資のキャッシュフローを試算するには、以下の要素を整理します。
収入側
- 満室時家賃収入
- 想定稼働率(90〜95%が現実的な目安)
支出側(運営費)
支出側(資金調達)
- ローン返済額(元利合計)
数値例で見る収支シミュレーション
以下は一般的な構造を理解するための仮の数値例です(実在物件の数値ではありません)。
前提
- 物件価格:1億円
- 満室時年間家賃収入:800万円(表面利回り8.0%)
- 自己資金:2,000万円、借入:8,000万円(金利2.0%・30年返済)
年間の収支試算
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 満室家賃収入 | 800万円 |
| 稼働率93%での実収入 | 744万円 |
| 管理委託費(5%) | △37万円 |
| 固定資産税・都市計画税 | △50万円 |
| 損害保険料 | △10万円 |
| 修繕費積立(家賃の7%) | △52万円 |
| 運営費差引後(NOI) | 595万円 |
| 年間ローン返済額(元利) | △355万円 |
| 税引前キャッシュフロー | 240万円 |
この例では、自己資金2,000万円に対して年間240万円の税引前キャッシュフロー(自己資金利回り約12%)が得られる計算になります。ただし所得税・住民税を差し引いた手残りはさらに減ります。
シミュレーションで必ず織り込むべきリスク
空室率の悪化
稼働率を満室(100%)で計算すると過大評価になります。最低でも稼働率90〜95%、エリアによってはそれ以下を想定します。上記の例で稼働率が85%に落ちると実収入は680万円となり、キャッシュフローは大きく圧迫されます。
金利上昇
変動金利の場合、金利が上昇すると返済額が増えます。金利が2.0%から3.0%に上がると、上記例の年間返済額は約45万円増え、キャッシュフローを直撃します。
修繕費の発生
築年数が進むと大規模修繕(外壁・屋根・給排水)が発生します。一時的に数百万円規模の支出が発生するため、修繕積立を計画に織り込む必要があります。
賃料の下落
築年数の経過に伴い賃料は緩やかに下落します。新築時の賃料が長期間維持される前提でのシミュレーションは危険です。
デッドクロスと出口まで含めた損益
デッドクロスに注意
減価償却費の計上が終わる一方でローンの元金返済が続くと、帳簿上の利益が膨らんで税負担が増え、手残りが減っていく「デッドクロス」と呼ばれる状態に陥ることがあります。特に耐用年数の短い木造物件では早期に到来しやすいため、何年目に発生するかを購入前に把握し、繰上返済や売却のタイミングをあらかじめ検討しておきましょう。
売却まで含めた全体損益で判断する
不動産投資の最終的な成果は、保有中のキャッシュフローの累計と売却損益の合計で決まります。保有中の手残りが良好でも、売却価格が大きく下がれば全体では損失になることもあります。購入時点で「何年保有して、いくらで売却できれば全体でプラスになるか」という出口シナリオを複数想定しておくことが、収支シミュレーションの仕上げです。
まとめ
一棟投資の収支シミュレーションは、表面利回りではなく「実質利回り」と「キャッシュフロー」を基準に行うことが基本です。
満室・現状金利という楽観前提だけでなく、空室率の悪化・金利上昇・修繕費・賃料下落といったリスクシナリオを織り込んだ複数パターンの試算を行うことで、想定外の収支悪化に耐えられる物件を見極められます。一棟投資は金額が大きいぶん、この事前試算の精度が成否を分けます。
