市民農園・貸し農園という土地活用の選択肢
遊休地や相続で取得した土地の活用方法として、賃貸アパートや駐車場、太陽光発電と並んで検討肢に挙がるのが「市民農園・貸し農園」としての土地活用です。地域住民に小区画に分けた農地を貸し出し、利用者から利用料を得るビジネスモデルで、都市近郊や地方都市の郊外で一定の需要があります。
賃貸住宅のような建物投資を必要とせず、比較的少ない初期費用で土地を収益化できる点が特徴ですが、農地を対象とする以上、農地法や特定農地貸付法などの法制度を理解したうえで進める必要があります。
開設方式の種類
市民農園・貸し農園の開設方法は、主に3つの方式に整理されます。
- 特定農地貸付方式:1989年に制定された「特定農地貸付けに関する農地法等の特例に関する法律」に基づき、市町村・農業協同組合等が主体となって、農地を10a未満・貸付期間5年以内などの要件で小区画に分けて貸し付ける方式です。農業委員会の承認を受けることで、通常の農地法上の権利移動許可の手続きを簡素化できます。
- 市民農園整備促進法方式:市民農園としての利便増進施設(休憩所・農機具庫・給水施設等)を整備し、市町村長の認定を受けて開設する方式です。整備した施設を活用することで、より快適な利用環境を提供できます。
- 農園利用方式:農地所有者が農作業の指導を行いながら利用者に体験の場を提供する方式で、貸付けというより「農業体験サービス」に近い形態です。農地の権利移動を伴わないため、比較的着手しやすい方式とされています。
所有する土地の形状・面積・立地に応じて、どの方式が適しているかは変わります。
収益モデルと初期費用
市民農園・貸し農園の収益は、利用者から徴収する年間利用料が基本になります。区画数×利用料が売上の目安になりますが、賃貸アパートのような高額な建築投資は不要な一方、次のような初期費用・維持費用がかかります。
建物を伴う賃貸経営に比べると初期投資は抑えやすい一方、利用料単価は決して高くないため、区画数を一定以上確保できる土地の広さが収益性を左右します。狭小地では採算が合いにくく、ある程度まとまった面積の遊休農地・相続農地に向いた活用方法といえます。
都市農地の貸借を後押しする制度
かつて都市部の農地(生産緑地等)は、貸し出すと相続税の納税猶予が打ち切られるなど、貸借に慎重にならざるを得ない制度上の制約がありました。この課題に対応するため、2018年に「都市農地の貸借の円滑化に関する法律」が施行され、一定の要件を満たせば都市農地を貸し出しても相続税の納税猶予を継続できる仕組みが整えられています。
これにより、生産緑地を所有する都市部の地主が、自ら耕作を続ける代わりに市民農園として貸し出す選択肢が広がりました。ただし納税猶予の継続には細かな要件があるため、税理士や自治体の農業委員会への事前確認が欠かせません。
運営上の注意点とリスク
市民農園・貸し農園経営には、賃貸住宅とは異なるリスクや手間があります。
利用者トラブルへの対応:区画の使い方を巡る利用者間のトラブル、無断で隣接区画に侵入する、雑草を放置して周農に迷惑をかけるといった管理上の課題が発生しやすく、運営者側でのルール整備と巡回対応が必要です。
季節による稼働率の波:家庭菜園ブームの時期には申込みが集まりやすい一方、夏場の草刈り負担の大きさなどから利用を途中でやめる利用者が一定数出るなど、稼働率が季節・年によって変動しやすい事業です。
農地転用との違いへの理解:貸し農園はあくまで農地として利用し続ける活用方法であり、宅地への転用を前提とした土地活用とは制度上の位置づけが異なります。将来的に売却や別用途への転用を考えている土地では、慎重な検討が必要です。
他の土地活用方法との比較で考える
遊休地・相続農地の活用方法としては、市民農園・貸し農園のほかにも、駐車場経営、資材置き場としての貸付け、太陽光発電用地への転用など複数の選択肢があります。市民農園は建築物を要さず初期費用を抑えられる反面、区画あたりの利用料は駐車場や太陽光と比べて高くはなく、まとまった収益を狙うというより「維持コストを利用料でまかないながら、土地を農地のまま保全する」性格の強い活用方法です。
固定資産税の評価においても、農地として利用を続けることで宅地並み課税を回避できる場合があり、将来的に転用や売却をするかどうか判断がつかない土地を、当面のあいだ農地のまま塩漬けにせず有効活用する「つなぎ」の選択肢として位置づけられることもあります。逆に、数年以内に宅地への転用や売却を予定している土地では、市民農園としての造成費用を回収しきれない可能性があるため、保有期間の見通しとあわせて検討することが望まれます。
まとめ
市民農園・貸し農園経営は、建物投資を伴わずに遊休地・相続農地を収益化できる土地活用の一つですが、特定農地貸付法や都市農地の貸借の円滑化に関する法律など、農地特有の制度理解が前提になります。区画数を確保できる土地の広さ、利用者管理の手間、季節変動といった実務面、そして他の土地活用方法との収益性の違いを踏まえたうえで、保有期間の見通しと合わせて検討することが望まれます。
