不動産の販売資料を眺めていると、同じような物件でも利回りの数字に幅があることに気づきます。なかには「表面利回り12%」と大きく書かれていても、実際に運用を始めてみると手元に残るお金がまったく違う、というケースが珍しくありません。その原因の多くが、資料に書かれた利回りが「想定利回り」なのか「現況利回り」なのかを買い手が区別できていないことにあります。利回りの種類のなかでも、この想定と現況の違いは、表面利回りと実質利回りの違いと並んで投資判断を左右する重要な論点です。
想定利回りと現況利回りはどう違うのか
想定利回りとは、その物件が満室で稼働した場合に得られる年間家賃収入をもとに計算した利回りです。空室があっても、その部屋に「相場ならこれくらいの家賃で貸せるはず」という想定賃料を当てはめ、全戸が埋まっている前提で計算します。販売資料に大きく書かれている利回りは、この想定利回りであることがほとんどです。売る側にとっては数字が大きく見えるため、訴求力が高いからです。
一方の現況利回りは、いま実際に入居している部屋から得られている家賃収入だけで計算した利回りです。たとえば10戸のうち3戸が空室なら、その3戸分の収入はゼロとして扱います。つまり、現況利回りはその物件の「いまの実力値」を表し、想定利回りは「フルに稼働したときの理論値」を表していると整理できます。
両者の差が小さい物件は、現に入居がついていて運用が安定していると読めます。逆に差が大きい物件は、空室が多いか、現況の家賃が想定賃料より低く設定されている可能性が高く、その背景に目を向ける必要があります。
計算方法を具体的に押さえる
想定利回りは「満室想定の年間家賃収入 ÷ 物件価格 × 100」で求めます。たとえば物件価格が5,000万円、全戸が満室で貸せれば年間500万円の家賃収入が見込める物件なら、想定利回りは10%です。
現況利回りは「現に得ている年間家賃収入 ÷ 物件価格 × 100」で計算します。同じ物件で、いま実際には年間350万円分しか入居がついていない場合、現況利回りは7%まで下がります。同じ物件、同じ価格でも、見る角度を変えるだけで10%と7%という大きな差が生まれるわけです。
ここで注意したいのが、購入後に自分が受け取るのは現況の収入から始まるという事実です。買った瞬間に満室になるわけではありません。空室をどれだけの期間で、どの家賃水準で埋められるかが、想定利回りに近づけるかどうかの分かれ目になります。
満室想定の罠が潜むポイント
想定利回りの数字を鵜呑みにすると、いくつかの罠にはまります。第一に、想定賃料が現実離れして高く設定されているケースです。周辺相場より明らかに高い賃料で想定を組めば、利回りはいくらでも大きく見せられます。販売資料の想定賃料が、近隣の同じ間取り・築年数の募集賃料と比べて妥当かを必ず確認しましょう。
第二に、長期空室の部屋を「想定だから埋まる」と楽観視してしまうケースです。長く空いている部屋には、設備の古さ、間取りの使いにくさ、立地の弱さなど、相応の理由があることが多いものです。その理由を解消できなければ、想定利回りはいつまでも理論値のままにとどまります。
第三に、退去予定や定期借家の期限が近い入居者を、安定収入とみなしてしまうケースです。現況では満室に見えても、近いうちに複数戸が同時に退去すれば、現況利回りは一気に下がります。レントロール(家賃明細表)で各戸の契約形態や入居時期を確認し、収入の持続性を見極めることが欠かせません。
投資判断に活かす実践チェック
実際の物件検討では、想定利回りと現況利回りの両方を必ず把握し、その差の理由を言語化することを習慣にしましょう。差がほとんどない満室稼働の物件は安定している反面、利回り自体が市場で評価され尽くして価格が割高な場合もあります。逆に差が大きい物件は、空室を埋められれば現況利回りを想定利回りに近づけられる「伸びしろ」がある一方、埋められなければ収支が苦しいままという両面を持ちます。
判断の軸になるのは、自分が想定利回りに何年でどれだけ近づけられるかという見立てです。空室の理由が「家賃設定が高すぎた」だけなら、適正賃料に下げて募集すれば比較的早く埋まる可能性があります。一方、立地や建物の根本的な弱さが原因なら、リフォームや設備投資のコストを織り込んだうえで、それでも現況利回りが採算ラインに乗るかを冷静に試算する必要があります。
最終的には、購入後の数年間を現況利回りの水準で耐えられるかという資金面の備えも欠かせません。想定利回りは目標値として持ちつつ、買った直後の現実は現況利回りから始まると理解しておくこと。この二つの数字を切り分けて読む力が、満室想定の罠を避け、表面の数字に惑わされない物件選びにつながります。
