税抜経理方式と税込経理方式の違い
消費税の経理処理には「税抜経理方式」と「税込経理方式」の2種類があります。税抜経理方式は、課税売上げに係る消費税等の額を「仮受消費税等」、課税仕入れに係る消費税等の額を「仮払消費税等」として、売上高や仕入高とは区分した勘定科目で処理する方式です。一方、税込経理方式は、課税売上げ・課税仕入れに係る消費税等の額を区分せず、売上金額や仕入金額などにそのまま含めて計上する方式です。
どちらを選ぶかによって、日々の仕訳の形だけでなく、決算書に表れる売上高・利益の水準、納付税額や還付金の扱い、そして固定資産の取得価額の考え方まで変わってきます。特に建物のように一度に多額の消費税額が動く資産を購入するタイミングでは、この選択が損益や減価償却費に無視できない影響を及ぼします。本稿は2026年7月時点の国税庁の取扱いをもとに、収益物件オーナーが建物購入時に押さえておきたいポイントを整理します。
免税事業者と課税事業者で選べる方式が異なる
まず前提として、経理方式を選べるのは課税事業者に限られます。免税事業者は、たとえ帳簿上で税抜経理方式のような処理をしていたとしても、所得税または法人税の所得金額を計算する際には税込経理方式を適用することとされています。つまり、免税事業者に「税抜経理方式を選ぶ」という選択肢そのものが実質的に存在しません。
これに対し課税事業者は、税抜経理方式・税込経理方式のどちらを選んでもよいとされています。ただし選択した方式は、その事業者が行うすべての取引に適用するのが原則です。例外として、固定資産・繰延資産・棚卸資産の取得に関する取引か、あるいは販売費・一般管理費などの支出に関する取引か、そのいずれか一方についてのみ税込経理方式を選択することも認められています。棚卸資産の取得取引について異なる処理方式を適用する場合は、継続して適用することが条件です。建物を購入して賃貸事業を始める、あるいは事業用資産として保有するオーナーは、まず自分が課税事業者かどうか、そして現在どちらの方式を採用しているかを確認することがスタート地点になります。
建物購入時に税抜経理方式を選ぶとどうなるか
税抜経理方式では、建物購入に伴って支払った消費税等の額は仮払消費税等として区分経理されます。売上や仕入の金額そのものには消費税相当額を含めず、本体価格部分だけを計上するのがこの方式の基本的な考え方です。したがって、建物の取得価額(減価償却の基礎となる金額)についても、消費税等相当額を含まない金額をベースに計算するのが税抜経理方式の一般的な処理となります。
これにより、決算書上の売上高や資産の帳簿価額は消費税分だけ小さく表示され、損益計算書は税抜ベースで統一的に把握しやすくなります。減価償却費も税抜の取得価額を基礎に計算されるため、税込経理方式に比べて毎期の減価償却費がやや小さくなる点は意識しておく必要があります。
税込経理方式を選ぶとどうなるか
税込経理方式では、課税売上げ・課税仕入れに係る消費税等の額を売上金額や仕入金額などに含めて計上します。建物の取得価額も、支払った消費税等を含んだ金額がベースになります。減価償却費は税込の取得価額を基礎に計算されるため、税抜経理方式よりも計上される減価償却費は大きくなります。
また税込経理方式では、消費税等の納付税額は租税公課として必要経費または損金の額に算入し、還付を受けた場合の還付金は雑収入として益金に算入します。建物購入によって多額の還付を受けた事業年度は、その還付金が一時的に利益を押し上げる形で計上される点は、税抜経理方式との大きな違いです。逆に納付が発生する事業年度は、その納付額が経費として利益を圧縮します。決算期をまたいで消費税の受払いのタイミングがずれると、期ごとの損益が振れやすくなるのが税込経理方式の特徴といえます。
控除対象外消費税額等の調整に注意
税抜経理方式を採用している場合、課税期間中の課税売上高が5億円超、または課税売上割合が95パーセント未満であるときには、仕入税額控除の対象にならなかった消費税額等(控除対象外消費税額等)が生じます。収益物件オーナーの場合、住宅の貸付けのように消費税が非課税となる売上げの比率が高いと、課税売上割合が95パーセントを下回ることは十分にあり得ます。
資産に係る控除対象外消費税額等は、その事業年度または年分の課税売上割合が80パーセント以上であること、棚卸資産に係るものであること、あるいは一の資産に係る金額が20万円未満であることのいずれかに該当すれば、その事業年度の損金(必要経費)に算入できます。これらに該当しない場合は「繰延消費税額等」として資産計上し、60で除してその事業年度の月数を乗じた金額の範囲内で60か月にわたって償却します。取得した事業年度は、この計算額の2分の1に相当する金額の範囲内でしか損金算入できません。建物購入で高額の控除対象外消費税額等が発生するケースでは、この繰延処理の要否が資金繰りや期ごとの損益に影響するため、事前に課税売上割合の見込みを確認しておくことが望まれます。
まとめ:どちらを選ぶべきか
税抜経理方式・税込経理方式のどちらにも一長一短があり、どちらが絶対的に有利ということはありません。税抜経理方式は消費税分を損益から切り離して経営成績を把握しやすい一方、税込経理方式は納付・還付の動きがそのまま損益に反映されるため、資金繰りと利益の関係を直感的に捉えやすいという側面があります。いずれの方式も、選択した後は継続適用が原則である点を踏まえ、建物購入のような大きな課税仕入れが発生する前に、顧問税理士等の専門家と相談しながら自社の状況に合った方式を検討することが大切です。収益物件の情報収集やシミュレーションには、収益JPのコラムや収益計算ツールもあわせてご活用いただけます。
