民泊撤退が増えている背景
新型コロナウイルス感染症の影響によるインバウンド需要の急減、住宅宿泊事業法(民泊法)による営業日数制限(年間180日)、自治体条例による規制強化などを背景に、民泊(Airbnb等)から撤退し、通常の賃貸住宅に転用するオーナーが増えています。
民泊から賃貸への転用は、一見シンプルに見えますが、設備の扱い・原状回復・確定申告・次の入居者募集まで、多くの実務上の課題があります。
民泊から賃貸への転用手順
1. 営業廃止の手続き
住宅宿泊事業法に基づき届出を行っていた場合、事業廃止の届出を都道府県(または保健所)に提出します。廃止届を忘れると書類上は営業中とみなされる場合があるため注意が必要です。
旅館業法の許可を取得していた場合は、許可の廃止(許可証の返納)が必要です。
2. プラットフォームのリスティング停止
Airbnb・Booking.com等のプラットフォームのアカウントを停止・非公開にします。未完了の予約がある場合はキャンセル処理と返金が必要です。
3. 原状回復の確認と施工
民泊として使用した物件は、一般的な賃貸使用と比べて以下の点で劣化・損耗が発生しやすいです。
| 箇所 | 主な劣化・損耗 |
|---|---|
| 壁クロス | 短期滞在者の出入りによる汚れ・傷 |
| 床材 | キャリーケースによる傷・凹み |
| 設備(キッチン・バス) | 不特定多数使用による消耗 |
| 鍵・スマートロック | 動作不良・電池切れ・設定リセット |
原状回復の費用は物件の状態・期間・運用形態によって大きく異なりますが、ワンルームで30万〜100万円程度、ファミリータイプ物件で50万〜200万円程度が目安になることがあります。
設備転用の可否と注意点
民泊に特化した設備を賃貸に転用できるものとできないものがあります。
転用しやすい設備
- 家具・家電:次の入居者が家具付き物件として入居する場合はそのまま利用可能。設備として貸し出す場合は修繕義務がオーナーに発生することを認識しておく
- スマートロック(キーレス錠):賃貸でも活用可能。ただし電池管理・設定の手間は管理会社と役割分担を明確に
- Wi-Fi機器:フリーWi-Fi設備を引き継ぐ場合、月額費用をオーナーが負担するか入居者負担にするかを検討
注意が必要な設備
- 消防設備:民泊・旅館業法用の消防設備(自動火災報知設備等)は、賃貸住宅の基準と異なる場合がある。消防署・建築士に確認が必要
- 特殊な内装(和室の演出・装飾等):次の入居者ターゲットに合わない場合は撤去・変更コストが発生
用途変更に伴う建築確認の要否
民泊→賃貸への転用は通常、用途変更の建築確認申請は不要です(どちらも「住宅」として同一用途区分のため)。ただし旅館業法の許可を受けていた施設は「旅館・ホテル」として登録されている場合があり、この場合は建築士への確認を推奨します。
原状回復費用の会計・確定申告処理
所得税(事業的規模の場合)
民泊事業から生じた費用として損金算入できる期間は、民泊営業を行っていた期間です。廃業後の原状回復費用は、廃業に伴う必要経費として処理できる場合があります。詳細は税理士に確認してください。
建物の帳簿価額と廃棄・除却
民泊向けに設置した設備(スマートロック・家電等)を除却する場合、帳簿価額が残っている場合は固定資産除却損として計上できます。
次の入居者募集のポイント
民泊から賃貸に転用する際の入居者募集では以下の点を考慮します。
ターゲット設定の見直し
民泊物件は外国人・短期滞在者向けに設計されていることが多いため、次の入居者ターゲットに応じたリフォームが必要な場合があります。
- 単身者向け:不要な設備(ダイニングテーブル・多数の寝具等)を撤去し、収納スペースを確保
- ファミリー向け:キッチン・バスのグレードアップを検討
- インバウンド富裕層向け長期滞在:そのまま外国人向け長期賃貸(ウィークリー・マンスリー)に転用する選択肢も
入居者募集の注意点
民泊で使用していた物件を賃貸で募集する際、過去の民泊利用歴を告知する義務は現時点では明確な法規定がありません。ただし設備の劣化状況について正直に説明し、入居前の状態確認書を丁寧に作成することがトラブル防止に重要です。
まとめ
民泊から賃貸への転用は、廃業手続き・原状回復・設備の扱い・確定申告という複数のステップを経ます。特に原状回復コストは民泊の利用実態によって大きく変わるため、撤退を決める前に複数の業者に見積もりを取ることを推奨します。
賃貸転用後は安定した家賃収入を得られる一方、民泊で実現していた高単価収益は見込めなくなります。長期的な収益計画を再設計したうえで、物件の活用方法を見直すことが重要です。
