日本は地震、台風、豪雨、洪水など、自然災害のリスクが高い国です。仙台を含む東北地方では、東日本大震災の経験から災害への意識が高いオーナーも多いですが、時間の経過とともに備えが薄れている方もいるかもしれません。
収益物件が被災した場合、オーナーには入居者の安全確保、建物の被害状況の確認、保険会社への連絡、行政手続き、修繕の手配など、短期間にさまざまな対応が求められます。パニックにならずに適切な対応を取るためには、事前に「何をすべきか」を知っておくことが重要です。
この記事では、収益物件が自然災害で被災した場合のオーナーの対応を、時系列に沿って解説します。仙台エリアの災害リスクについては仙台の災害リスクと不動産投資でも詳しく解説していますので、事前の備えとしてあわせてご覧ください。
災害発生直後にオーナーが最初にすべきことは、入居者の安全確認です。管理会社に委託している場合は、管理会社を通じて入居者全員の安否を確認します。自主管理の場合は、自分自身で連絡を取ります。
安否確認の方法は、電話・メール・SNSなど複数の手段を併用しましょう。大規模災害の場合は電話がつながりにくくなるため、メールやSNSのほうが連絡が取りやすい場合があります。日頃から入居者との連絡手段を複数確保しておくことが大切です。
入居者にけが人がいる場合は、救急への通報を最優先にします。建物の構造に重大な損傷がある可能性がある場合は、入居者に避難を呼びかけてください。オーナー自身が被災している場合もありますので、まずは自分の安全を確保したうえで対応にあたりましょう。
入居者の安全が確認できたら、次に建物の被害状況を確認します。ただし、余震や二次災害の危険がある場合は、無理に現地に行くべきではありません。安全が確認できてから、以下の点を中心にチェックします。
構造体の損傷として、建物の傾き、柱や壁の大きなひび割れ、基礎の損傷がないかを確認します。これらが見られる場合は、建物の安全性に重大な問題がある可能性があります。
外装の被害として、屋根材の脱落・破損、外壁のひび割れ・剥落、窓ガラスの破損などを確認します。
設備の被害として、給排水設備の破損・漏水、電気設備の異常、ガス漏れ、エレベーターの停止などを確認します。特にガス漏れが疑われる場合は、速やかにガス会社に連絡してください。
共用部の被害として、階段・廊下の損傷、手すりの脱落、駐車場の損傷、敷地内のブロック塀の倒壊などを確認します。
被害状況は、写真や動画で記録しておくことが非常に重要です。後の保険請求や行政手続きで必要になります。日付入りで撮影し、できるだけ多くの角度から記録を残してください。
被害が大きい場合は、市区町村の窓口に連絡し、被害状況を報告します。後述する罹災証明書の発行申請にもつながるため、早めに行政との接点を持っておくことが大切です。
また、ライフラインに被害がある場合は、水道局、電力会社、ガス会社にそれぞれ連絡します。エリア全体での停電・断水の場合は、復旧の見通しを確認しましょう。
建物の被害が確認できたら、できるだけ早く保険会社(または代理店)に連絡します。火災保険、地震保険それぞれの証券番号、契約内容を手元に用意しておくとスムーズです。
大規模災害の場合は、保険会社にも大量の請求が殺到するため、対応に時間がかかることがあります。早めに連絡を入れておくことで、調査の順番を確保しやすくなります。保険の選び方については収益物件の保険の選び方で解説していますので、まだ保険を見直していない方は参考にしてください。
火災保険と地震保険では、補償の対象となる災害が異なります。
火災保険は、火災のほか、風災・水災・雪災・落雷などによる被害を補償します。台風による屋根の破損、豪雨による浸水被害などは火災保険の補償対象です。ただし、契約内容によって補償される災害の種類は異なるため、自分の契約内容を確認してください。
地震保険は、地震・噴火・津波による被害を補償します。地震保険は単独では加入できず、火災保険に付帯する形で加入します。地震による建物の倒壊、地震に伴う火災、津波による被害などが補償対象です。仙台エリアの火災保険・地震保険については仙台の火災・地震保険ガイドでも詳しく解説しています。
注意すべき点として、地震が原因で発生した火災は、火災保険では補償されず、地震保険の対象となります。このため、地震リスクの高い地域では地震保険への加入が特に重要です。
保険金の請求は、一般的に以下の流れで進みます。
まず、保険会社に事故(被害)の報告を行います。次に、保険会社が指定する損害調査員(アジャスター)が現地を訪問し、被害状況を調査します。この調査の際に、被災直後に撮影した写真や動画が重要な証拠資料になります。
調査の結果に基づいて損害額が算定され、保険金の支払い額が決定されます。支払い額に納得できない場合は、保険会社に再調査を依頼することも可能です。
保険金が支払われるまでの期間は、災害の規模や被害の程度によって異なりますが、大規模災害の場合は数か月かかることもあります。修繕の着工を急ぐ場合は、保険金の支払い前に自己資金で着手する必要が生じることもあるため、資金計画に余裕を持っておきましょう。
保険金の使途は基本的に自由です。必ずしも修繕に充てる必要はなく、修繕せずに売却する場合の資金として使うこともできます。ただし、保険金で修繕費用をまかなえない場合は、差額を自己負担する必要があります。
被災後の入居者は、不安を抱えています。オーナー(または管理会社)は、被害状況、復旧の見通し、一時的な避難の必要性、家賃の取り扱いなどについて、できるだけ早く正確な情報を提供しましょう。
情報が不確定な段階であっても、「現在調査中である」「わかり次第連絡する」といった中間報告を行うことが重要です。何の連絡もない状態が続くと、入居者の不安と不満が募ります。
建物の損傷によって入居者が物件を使用できない状態になった場合、民法上、賃料の減額が認められます。具体的には、建物が一部損傷して使用に支障がある場合は損傷の程度に応じた減額、全く使用できない場合は賃料の全額が当然に減額されるとされています(民法第611条)。
なお、2020年の民法改正により、賃借物の一部が使用できなくなった場合には、賃借人の請求がなくても「当然に」賃料が減額されるとされています。減額の幅については、建物の使用可能な割合や、使用できない期間などを考慮して判断します。
被害が甚大で建物の継続使用が不可能な場合、入居者に退去をお願いしなければならないこともあります。この場合、退去にかかる引っ越し費用や一時的な住居の確保について、オーナーとしてどこまで支援できるかを検討しましょう。
法的には、天災による建物の滅失は不可抗力であり、オーナーに帰責事由がないため、損害賠償義務は原則として発生しません。しかし、入居者との良好な関係を維持し、将来の再入居や評判への影響を考慮すると、できる限りの配慮を行うことが望ましいです。
不動産投資の収益性を総合的にシミュレーションできます
投資シミュレーションで今すぐ計算してみる被災した建物を修繕するか、解体して建て替えるかの判断は、オーナーにとって最も重要で難しい意思決定の一つです。判断の基準となる主な要素は以下のとおりです。
構造体の健全性が最も重要です。柱、梁、基礎など構造体に深刻な損傷がある場合、修繕では根本的な安全性を回復できない可能性があります。構造体の健全性は、必ず建築士などの専門家に調査を依頼して判断してもらいましょう。
修繕費用と建替え費用の比較も重要です。修繕費用が建替え費用に近い、あるいは上回る場合は、建替えのほうが合理的です。建替えれば新築として耐用年数がリセットされ、最新の耐震基準や設備を導入できるというメリットもあります。
建物の築年数と残存耐用年数も考慮します。築年数が古く、残存耐用年数が短い建物を多額の費用をかけて修繕することが経済的に合理的かどうかを検討します。外壁修繕の考え方については外壁修繕の進め方も参考になります。
保険金でカバーできる範囲も判断材料です。修繕費用のうちどの程度が保険金でまかなえるかによって、自己負担額が変わります。
修繕か建替えかの判断を自分だけで行うのは危険です。建築士、構造計算の専門家、不動産コンサルタントなど、複数の専門家の意見を聞いたうえで判断しましょう。特に構造体の損傷については、素人目では判断できない問題が多いため、必ず専門家の調査を受けてください。
また、修繕・建替えのいずれの場合も、複数の施工業者から見積もりを取ることをおすすめします。災害後は施工業者が不足し、通常より高い見積もりが出ることがありますので、慎重に比較検討しましょう。
罹災証明書は、災害によって住居が被害を受けたことを市区町村が証明する書類です。被害の程度に応じて「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」「準半壊」「一部損壊」のいずれかに認定されます。
罹災証明書は、各種公的支援を受けるために必要な書類です。被災後、できるだけ早く市区町村に申請しましょう。申請には、被害状況がわかる写真が必要になるため、前述のとおり被災直後の記録が重要です。
ハザードマップを事前に確認しておくことで、自分の物件がどのような災害リスクにさらされているかを把握できます。仙台のハザードマップの見方と活用法では、仙台エリアのハザードマップの読み方を解説しています。
被災した場合に活用できる主な公的支援制度を紹介します。ただし、制度の内容は災害の規模や自治体によって異なるため、詳細は市区町村の窓口で確認してください。
被災者生活再建支援制度は、自然災害により居住する住宅が全壊するなど、生活基盤に著しい被害を受けた世帯に対して支援金が支給される制度です。ただし、この制度は居住用の住宅が対象であり、収益物件(賃貸用)については対象外となる場合があります。
災害復旧融資として、日本政策金融公庫や民間金融機関から、通常より低い金利で融資を受けられる制度が設けられることがあります。修繕資金や建替え資金が不足する場合に活用できます。
固定資産税の減免として、被災した建物や土地の固定資産税が減免される措置が講じられることがあります。減免の割合や期間は被害の程度や自治体の条例によって異なります。
所得税の雑損控除として、災害により資産に損害を受けた場合、確定申告で雑損控除を受けることができます。修繕費用や取り壊し費用なども控除の対象になり得ます。
災害に関連して、以下のような税制上の特例が設けられている場合があります。
被災した資産の取り壊し費用や修繕費用の必要経費算入、被災代替資産を取得した場合の特例、災害に関連する損失の繰越控除などです。これらの特例は災害の規模や種類によって適用範囲が異なるため、税理士に相談のうえ、活用できる制度をもれなく把握しましょう。
保険の補償内容は、物件の現在の状況に合っているかを定期的に見直しましょう。建物の評価額が変わっていないか、水災補償が付いているか、地震保険に加入しているか、免責金額は適切かなどを確認します。収益物件の保険の選び方を参考に、補償内容を定期的にチェックしてください。
災害時に入居者と速やかに連絡が取れるよう、複数の連絡手段を確保しておきましょう。メールアドレス、携帯電話番号に加え、LINEなどのSNSも活用できます。管理会社に委託している場合は、管理会社が入居者との連絡体制を整備しているかを確認してください。
旧耐震基準(1981年5月以前に建築確認を受けた建物)で建てられた物件を所有している場合は、耐震診断を受けることを検討してください。耐震補強工事には自治体の補助制度が利用できる場合もあります。
また、排水設備の点検、屋上・ベランダの排水口の清掃、外壁のひび割れ補修など、日常的なメンテナンスが防災対策にもつながります。
管理会社と連携して、災害時の対応マニュアルを作成しておくことをおすすめします。誰が何をするか、連絡先の一覧、緊急時の判断基準など、事前に取り決めておくことで、いざというときの対応が格段にスムーズになります。
自然災害は防ぐことができませんが、事前の備えと被災後の迅速な対応によって、被害を最小限に抑えることは可能です。特に収益物件のオーナーは、自分自身の被害だけでなく、入居者の安全と生活を守る責任もあります。
平時から保険の見直し、建物のメンテナンス、連絡体制の整備、対応マニュアルの準備を行い、万が一の際に慌てずに行動できるようにしておきましょう。被災後は、入居者の安全確認を最優先に、保険会社や行政との手続きを速やかに進めることが、早期復旧への第一歩です。
そして、修繕か建替えか、保有し続けるか売却するかという大きな判断は、感情に流されず、専門家の力を借りながら経済合理性に基づいて冷静に行いましょう。