不動産投資の規模が拡大してくると、個人のままで運用を続けるか、法人を設立するかという判断に直面します。法人化を決断した後に待っているのは、「どの法人形態を選ぶか」「どのような手順で設立するか」という具体的な実務の課題です。
法人形態には主に株式会社と合同会社がありますが、不動産投資家にとってどちらが適しているかは、投資規模や将来の事業計画によって異なります。法人化そのものの判断基準については法人化のタイミングと判断基準で解説していますが、本記事では設立手続きの具体的な流れと費用を中心に解説します。
株式会社は日本で最も一般的な法人形態であり、社会的な認知度が高いのが特徴です。出資者(株主)と経営者(取締役)を分離できる構造で、将来的に第三者からの出資を受け入れたい場合にも対応しやすくなっています。
一方で、設立費用が合同会社に比べて高額になる点、決算公告の義務がある点、役員の任期が定められている点(原則2年、最長10年に延長可能)など、維持管理の手間とコストが相対的に大きくなります。
合同会社は2006年の会社法改正で導入された法人形態です。設立費用が株式会社よりも低く、定款認証が不要で、役員任期の制限もないため、維持コストを抑えやすいのが大きなメリットです。
不動産投資では、多くの場合、自分自身が出資者であり経営者でもあるため、株式会社の「所有と経営の分離」という仕組みが必ずしも必要ありません。そのため、コスト面から合同会社を選ぶ不動産投資家は少なくありません。
設立時の主な費用を整理すると、以下のような違いがあります。
株式会社の場合:
合同会社の場合:
電子定款を利用すれば、収入印紙代(紙の定款の場合4万円)を節約できます。司法書士等の専門家に設立手続きを依頼する場合は、別途報酬が発生します。
法人設立にあたり、まず以下の基本事項を決定します。
仙台で法人を設立する場合、本店所在地は仙台市内の住所を使用し、管轄の法務局(仙台法務局)に登記申請を行います。
定款には、商号・事業目的・本店所在地・出資に関する事項・事業年度などを記載します。株式会社の場合は公証役場での認証が必要ですが、合同会社の場合は認証不要で、作成のみで済みます。
電子定款を利用する場合は、電子署名の環境を整えるか、司法書士等に依頼する形になります。
定款作成後、発起人(出資者)の個人口座に資本金を振り込みます。この時点では法人口座はまだ存在しないため、個人口座への振込で問題ありません。振込後、通帳のコピーを登記申請書類として使用します。
必要書類を揃えて管轄の法務局に登記申請を行います。申請日が会社の設立日となるため、設立日にこだわりがある場合は日程を調整しましょう。登記完了までは通常1〜2週間程度かかります。
登記完了後、以下の届出が必要です。
青色申告の承認申請は、設立から3ヶ月以内または最初の事業年度終了日のいずれか早い日までに提出する必要があります。
法人設立後に意外とハードルが高いのが法人口座の開設です。近年、マネーロンダリング対策の強化により、法人口座の審査は厳しくなっています。
審査をスムーズに通過するためのポイントとして、以下が挙げられます。
東北地方の場合、地方銀行(七十七銀行等)や信用金庫は、地域に根ざした事業者との取引に積極的な傾向があり、メガバンクと比べて口座開設がスムーズに進むことがあります。
一つの金融機関で審査が通らない場合でも、他の金融機関では開設できることがあります。特に設立直後は実績がないため、複数の金融機関に並行して申請することも検討しましょう。融資との関係については不動産投資ローンの基礎知識もご参照ください。
毎月の収支とキャッシュフローをシミュレーションできます
キャッシュフロー計算で今すぐ計算してみる資本金の額は法人の信用力に影響します。不動産投資法人の場合、融資を受けることを前提に事業を行うため、あまりに少額の資本金では金融機関からの信頼を得にくい面があります。
一方、資本金が1,000万円以上になると、設立初年度から消費税の課税事業者になる可能性があるため、この点も考慮する必要があります。多くの不動産投資家は、こうした税務上の影響と信用力のバランスを踏まえて資本金額を決定しています。
法人設立は、不動産投資の節税やスケール拡大において有効な選択肢です。株式会社は社会的信用が高い反面、設立・維持のコストがかかり、合同会社はコストを抑えやすい反面、認知度では劣ります。不動産投資の場合、実務的には合同会社で十分なケースも多いですが、将来の事業展開を見据えて判断することが大切です。
設立手続き自体は定型的な作業ですが、事業目的の設定や資本金の決定など、後から変更すると費用がかかる項目もあるため、設立前に税理士や司法書士に相談しておくことをおすすめします。キャッシュフローシミュレーターで法人化後の収支を試算し、設立費用や維持コストを含めた総合的な判断をしましょう。